現在、私は大規模なデモ活動が繰り返されている香港を取材するついでに足を延ばして、その後背地に広がる広東省に来ている。
広東省の面積は日本よりもすこし大きく、人口1.1億人とGDP1.5兆ドルは、いずれも中国1位だ。中国国内でも指折りの街である深圳や広州も擁している。

ところが、そんな「先進国」に近い水準の土地にもかかわらず、広東省は意外と恐竜の化石が見つかる。
今回は近年の現地の恐竜ニュースをおさらいしつつ、中国随一の先進地域の意外な横顔に迫ってみよう。
土砂崩れによってタマゴの化石が!
近年、サイバー・イノベーションによって日本での知名度が急上昇している深圳は、常住人口の平均年齢が32歳程度という非常に若い街だ。それもそのはず、深圳はもともと香港に隣接していただけの田舎の漁村だった。1979年に改革開放政策が施行されたことで、急速な発展を遂げたのである。

そんな都市だけに、深圳は中国の都市としては逆に珍しいほど、歴史的な遺物がほとんどない街だ。
西部の南山区に南宋の最後の皇帝の墓「宋少帝墓」(ただし作られたのは1911年)があることと、北の龍崗区に客家(はっか)の古民家が保存されていることくらいである。

ところが近年、そんな深圳でもっと古いものが見つかった。
2013年7月19日、夏の強烈なスコールにより西部の坪山区で地すべりが発生。区の地質調査員が被害状況の確認に現地に向かったとこる、土砂のなかに不思議な丸い部分を持つ岩盤を複数発見したのである。
深圳ではじめての恐竜化石
発見者が地質に詳しい人たちだったことから、この「石」が化石であることはすぐに見当がついた。
調査員は市の土地計画開発委員会坪山管理局に電話で報告して岩盤を持ち帰り、あらためて何度か専門家に鑑定してもらったところ、やはり、恐竜のタマゴの化石(が含まれた岩盤、以下同じ)であった。
2015年9月に中山大学と中国科学院の合同研究チームが発表したところでは、この化石はピンッナトッリトゥス(Pinnatoolithus;これはタマゴの殻に付いた属名で、日本語表記は暫定的である)の新種とみられ、恐竜が絶滅したK-T境界からわずか数メートル下の地層に眠っていたという。白亜紀の最末期、運悪く孵化できなかったタマゴが化石化したわけだ。