金魚美術の世界は、かくも奥深い…百花繚乱の美しきモノたち

連綿と続く日本人と金魚の関わり
鈴木 克美

生きていないのに生きている金魚たち

というわけで、いそいそと出かけた展覧会初日は、美術館の前庭から、予想をはるかに上回るすごい人出だった。驚きながら作家に初対面のご挨拶をして、それから、スタッフに案内されて会場を見てまわった。

 

深堀さんの作品は、容器に透明な樹脂を流し込んで2日ほど待ち、樹脂表面が固まったらアクリル絵具で金魚の一部を描く、またその上に樹脂を流し込み、固まったら絵具で描く──という工程を繰り返してつくられていく。

彩色の繰り返しで立体感が出て、赤くて金色に光る金魚の、単純なようで複雑な深い光沢と色彩を巧みに表現されている。不用意に眺めて、生きた金魚の群れと錯覚したとしても、少しもおかしくはなかった。

会場のどの部屋も、壁面とフロアをいっぱいに使って、金魚をモチーフにした展示の工夫が凄かった。金魚の展覧会なのに、生きた金魚が1ぴきもいなくて、それでいて生きているものの意外な躍動感があった。今にも動き出しそうな金魚の群れ、じっくり見て見飽きない、予想以上に素敵な世界だった。

「深堀隆介展」で出会った金魚の群れは、そうやって創り出されたすべてつくりものなのに、与えられたテーマに合わせて、それぞれに生きて泳いで見えた。壁に描かれた巨大な金魚、小さな入れものが狭苦しそうに丸い体を揺すり長い鰭を打ち振る太った金魚、小さなたらいの内側で円弧を描いて、密集して泳ぐ金魚の群れ。

昭和初期の町なかでふつうに見掛けた金魚を入れた浅い木桶を前後に振り分けて天秤棒でかついだ金魚売り、縁日の夜店の屋台に吊るされたガラス玉の中の金魚……。博物館の展示とも、金魚とも、向き合う機会をなくした今、私にはしみじみ懐かしい雰囲気でもあった。

深堀作品との出会いを始め、今回の復刊のおかげで私も新たな「金魚体験」を味わうことが出来た。室町時代の伝来から江戸期の大ブームを経て500年。日本人の金魚好きは、まだまだ続いていきそうだ。

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