「在野研究」はいまなぜブームなのか? 大学の外から学問する面白さ

凡人なりの攻め方、楽しみ方がある
荒木 優太 プロフィール

大学には就職できない

新自由主義的な特徴をもつとされる大学院重点化以降の大学改革が、今日、とりわけ人文社会系の基礎研究に大きな打撃を与えたことは様々なメディアで喧伝されてきた。

 

『ビギナーズ』では、博士後期課程に進学できないトラブルから一転、島根県の津和野で西周(にし・あまね)顕彰事業を立ち上げ、地域の文化的リソースの仲介・翻訳を新たな武器に改革の波に立ち向かおうとする石井雅巳(第一三章)に寄稿を願ったが、各業界からのたびかさなる有用性の要求、一部政治家による科研費バッシング、非常勤講師の首切り問題などなど、大学という場所で学問を志そうとする者にとって四面楚歌の状態がつづいていることは周知の事実だ。

なかでも、家族と安定を欲しながらも研究者として就職することがかなわず、2016年2月に自死してしまった西村玲さん(日本思想史を専攻)に関する一連の報道は、極めてショッキングなものだった。研究者界隈でこの報道が大きな動揺を与えたのは、単に彼女が就職できなかったというだけでなく、若手研究者を対象にした賞に恵まれ、博士号をもち、単著もある、という研究者として非の打ち所がない業績をもっていたようにみえるからだ。

このような好条件がそろってもなお就職できない……のならば、では、どうしろというのか? そう思った研究(志望)者はきっと数多くいたに違いない。

職業としての学問』(新しい訳だと『仕事としての学問』)を書いたマックス・ヴェーバーは、研究者がちゃんと就職できるかどうかは「サイコロ賭博」でしかないと既に記していた。能力ではなく運で決まる。『ビギナーズ』第一章に、政治学を専門とする酒井大輔「職業としない学問」――勿論、ヴェーバーを念頭にしたタイトルだ――を置いたのは、学問と職業とが強く結びすぎて、ややもすれば視野狭窄に陥りがちな固定観念をまずは解きほぐしてほしいと願ったからにほかならない。