『傷だらけの天使』から『天気の子』へ…聖地から描かれた「故郷」

時代を表す戦後映画史①70年代「東京」
佐々木 俊尚 プロフィール

田舎を出ていく

「田舎に帰る」の対になるラストシーンとして、「田舎を出ていく」というパターンも多かった。丸山健二原作を映画化した『正午なり』(1978年)は、一度は故郷の長野・信濃大町に戻ってきた主人公が、再び田舎を出ていくまでの日々を描いた。寺山修司が原作・脚本・監督の『田園に死す』(1974年)は、青森・恐山のふもとに住む中学生が、母親を捨てて上京するまでをも描く自伝的作品だ。

黒木和雄監督の『祭りの準備』(1975年)は、さらに時代をさかのぼる昭和30年代の高知・中村市を舞台にしている。信用金庫の職員タテオ(江藤潤)は、
いずれは東京に出て脚本家になるのを夢見ている。

過剰に息子を愛する母親に上京を猛反対され、生活にプライバシーは皆無で、タテオは田舎の生活の何もかもにうんざりしている。挙げ句に憧れていた彼女(竹下景子)を都会からやってきた左翼の男に奪われてしまい、都会へのコンプレックスも募っていく。ついに田舎を捨てることを決意したタテオは、とっておきのスーツをおろし、大事に飼っていたメジロを鳥かごから解き放ち、自転車で村を出るのだ。

 

この作品では、タテオの悪友トシちゃんを演じる原田芳雄がいい味を出している。真っ黒に日焼けして粗野で、でもどこまでも明るくて、そして乱暴な彼はとうとう強盗殺人を犯し、逃走の身になっている。トシちゃんとタテオが最後に駅でばったりと出会う。

トシちゃん、おれは東京行くだぜ」「え、東京? 何しに」「とにかく出ていくがじゃ。誰にも言わんと、おふくろにも言わんと、飛び出してきた」「そうか、東京か。ずいぶん思い切ったな」「こうするより、しょうがないがじゃ」「そうか、東京かあ。ええのう。ええわ。わしみたいに戻りとうても戻れんもんがおると思えば、ワレみたいに飛び出していくもんもおるちゃ。みょうなもんでのお

動き出す列車を追いかけながら、トシちゃんは両手を振り上げる。「バンザーイ、バンザーイ」。上着を脱いで大きく振り、見えなくなるまで叫び続けるのだ。