個展や本のカバー装画も多い人気イラストレーターの松尾たいこさん。32歳でデビューしてからは瞬く間に売れっ子になった松尾さんですが、実はずっと自信のないままに生きていたそうです。

母親との確執もあり、虚弱体質ですぐに疲れてしまう自分に自信が持てずにいたモノクロの人生。そこに少しずつ色がついていくように変わっていきました。

松尾さんが描く色鮮やかな絵のように、人生にどうやって色をつけていったのか。連載第8回は、「自分たちの生活に必要なものは何か」。とにかく物を持たない生活とも違う、自分たちの最低限を考えるようになった経緯を聞きました。

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もとからモノが少なかった夫

夫はもともとモノを持たないタイプです。
一人暮らしの部屋に遊びに行った時、きちんと片付き、テーブルの上には何もなく、「これだけしかモノがないの?」とびっくりしました。
もちろん床にモノを置くなんてこともなく、広めのワンルームはスッキリとしていました。

その頃、私は一人暮らしをスタートしたばかり。
1DKの部屋にはそんなにモノは置けません。

インテリアや家具には全くこだわりがなかったので、無印良品のソファベッドや冷蔵庫・電子レンジ・洗濯機など圧迫感のないシンプルなデザインのモノを揃えました。
ファッションは大好きだったので、洋服の数は膨大。クローゼットはパンパン。季節外れの洋服類は収納ケースに入れて積み上げていました。

仕事柄、画集や雑誌も多かったですね。その頃は、ファッション雑誌を月に10冊以上買っていたので、3ヵ月を目処に処分するようにしていました。

洋服以外のモノにはあまり執着がなかったので、なんとか小さな部屋でもモノが溢れかえることなく維持できていたという感じです。

モノが少ない方が仕事がはかどる!

そんな二人が暮らし始めてから今年で18年。

最初の頃からモノは少なめでスッキリと暮らしていたつもりでしたが、本格的に「ミニマルライフ」に向かったのは「他拠点生活」を始めるためでした。

まず2011年の東日本大震災を機に、リスクを分散させるために軽井沢にも家を借りました。
引っ越しと違い、新たに全てのモノを一から揃えないければなりません。
しかし東京の家と同じモノを揃えるには、お金もかかりすぎるので、まずは必要最低限のモノだけを揃えることにしました。

それでも生活にはいろいろなモノが必要です。

大きな家具でいえば、ダイニングテーブルと椅子・ソファー・ローテーブル・ベッド・それぞれの仕事部屋の机と椅子。家電製品は、冷蔵庫・電子レンジ・オーブン・洗濯機・テレビ。あとは、調理器具や食器などです。

それらを一気に揃えて、東京と軽井沢を行ったり来たりする暮らしが始まりました。
そうして気がついたことがあります。

軽井沢に滞在している時のほうが、居心地がよくリラックスでき、仕事が捗るのです。
それは、木々に囲まれた静かな環境だけでなく、モノの少なさによるものでした。
目に入る情報量が少ないと、自然と思考がスムーズになり考えもまとまりやすく、落ち着いて仕事ができるのでした。

軽井沢の家のアトリエ 写真提供/松尾たいこ

東京に戻ると、モノの多さをわずらわしいと感じるようになり、「なくてもなんとかなるよね」「本当にいま必要かな?」と自分に問いかけながら、せっせとモノを減らすようになりました。