大ヒットドラマ「全裸監督」の重要論点〜AV産業は昭和を引きずり…

「SMぽいの好き」を観て、驚いた
井戸 まさえ プロフィール

親子三世代に生き続けることになった黒木香

ネットフリックスの「全裸監督」は主人公の村西とおるとともに、もう一つの軸として元AV女優の黒木香氏を登場させる。

黒木香氏は名門女子校から横浜国大へ進学し、現役の女子大生AV女優「黒木香」として独特の話術と16歳以降剃毛したことのない脇毛を露出した姿で一世を風靡する。村西とおるの半生を語るとき、欠かすことができない女優である。

しかし、1994年に引退。その後、「あの人は今」といった消息記事やまた出演したアダルトビデオ作品の再版がプライバシーおよび肖像権の侵害に当たるとして、出版社やDVD販売会社に対して損害賠償等の民事訴訟を起こし、勝訴している。

今回のネットフリックスのドラマで、再び黒木香氏に注目が集まる。

 

ただ、ネットフリックスは村西とおる監督とも黒木香氏とも接触しておらず、あくまでも原作の『全裸監督』(本橋信宏著・太田出版)を映像化しただけとしていて、のことで、黒木氏の「忘れ去られる権利」についてはそもそも配慮等が必要との認識もない。

黒木香氏役の森田望智は体当たりで、まるで生きうつったかのような演技を見せる。私たちは「黒木香」を見ていたあの時代へと引き戻される。

ただ、番組を見ていて解せないのは、肖像権等に対して意識を持っている黒木香氏の名前は実名なのに、出演した「朝まで生テレビ」等のテレビ番組での田原総一郎と思しき司会者や鶴瓶や引退した上岡龍太郎氏は仮名にされている。原作本との兼ね合いなのかもしれないが、最も重要人物に対しての配慮がないことには違和感もある。

そして驚いたことに、「SMぽいの好き」は今も販売され、購入が可能である。販売元は「ナイスですね!村西とおるDVDショップ」である。

本論考を書くために、購入してみる。

私が申し込んだ時にはクレジットカード等は使えず、着払いのみ。余談だが留守をしたところ、不在票の送り主のところに「ナイスですね!」と書かれた。

結局、今回のネットフリックスのドラマによって、「黒木香氏は(本人意思と反して)親子三世代に渡って生き続けることになった」との常見陽平・千葉商科大学専任講師の指摘は重要である。

肖像権や再販に対して待ったをかけても、AV女優だった自分が、世界のどこかで生き続けているということでもある。

例えば、市井の人が映画の主人公となることはあり得る。作家のバージニア・ウルフやエリザベス一世等、死後に映画化されることを本人が拒むことはできない。遺族の意向等も含めてコントロールできない部分が多いだろう。

ただ、現状、本人が意思を表明でき、また、少なくともインターネットの発達が予想される以前の契約等については、瞬時に不特定多数の人々に配信される可能性がないといった状況下で契約したものであろうから、何らかの配慮は必要だし、だからこそ黒木香氏は勝訴したのだろう。