大ヒットドラマ「全裸監督」の重要論点〜AV産業は昭和を引きずり…

「SMぽいの好き」を観て、驚いた
井戸 まさえ プロフィール

もう一つ第1話で大事な逸話が父母の関係である。

第一話後半で挿入される村西とおるがまだ少年だった頃のエピソードだ。

戦後の復興が未だ行き届かない長屋。大粒の雨が降る中、昼間っから父母はセックスをしている。それを扉の外から眺めるとおる少年。戦地から戻ってきたものの、働く気はなく酒浸りの父。セックスが終わった後で、母は自分が息子のためにと貯めていた金までに手を出していたことに気がつき激昂する。

「戦死すればいがったんだ」

「なんだと、もう一回言ってみろ」

母は父に対して「言ってはならないこと」を言ってしまう。命がけで戦争に行き、ようやく生き残って帰ってきたというのに、死んだほうがよかったと言われた父は母にその場にあった傘を何度も振り下ろし、叩きつけるのだ。

暴力を振るう男は悪い。でも、それを誘発したのは女だ。命がけで家族を日本を守るために戦争に行き、戻った男は、子どものために貯金していた金を使い込んで何が悪い。ここでも一旦暴力の「免罪符」を埋め込んでおくのである。

しかし、子どもの憎悪は父に向かう。父の暴力から母親を助けようとして包丁を持ち出したとおる少年を、予想外にも母は叱り飛ばし、その刃を自分の手に収めて血だらけにするのである。

さっきまでセックスしていた夫婦を見ながら、息子とてその性愛の間には入れない無力感が漂う。とおる少年はこの時に、おぼろげながらもセックスの意味を感じているとの暗喩にもなっている。

 

村西自体も文藝春秋のインタビューに答えて「自分自身が涙したのは、第1話の親父とのシーンですね。父親から暴力を振るわれる母親を守ろうと父親に刃物を向けたら、母親から「父ちゃんに何すんだ!」と怒鳴られた。あのあとね、親父が家を出て行ったのですが、後から親戚に聞いたら「息子を親殺しにするわけにはいかない」という理由だったと。その記憶がまざまざと蘇ってまいりました。」としている。

母を守りたいと思っても、息子は暴力を振っても母とセックスをする父の存在を超えることができないことを悟るのだ。