日本の歴史がずっと、中国の「三国志」とともに歩んできた理由

日中戦争期、「三国志」は大ブームに
箱崎 みどり プロフィール

小学二年生の時にNHKの「人形劇三国志」に出会ってから、中高生の頃も、大学生のときのレポートも卒論も修論も、社会人になってからも、時間をみつけては「三国志」。「三国志」を読んだり――この本もそうですが、「三国志」について調べたり書いたりしている時間は、とても幸せなのです。

一人の人生をかけても、それでも追い切れないほどの「三国志」が、日本にはあります。

愛と欲望の三国志』では、そんな日本で生まれた「三国志」の豊かなバリエーションと、私が考えてきたことの一端をご覧いただこうと思っています。

 

ラーメンにたとえるなら…

日本での「三国志」関連書籍のバリエーションは、たとえるなら、ラーメンに似ています。同じラーメン/「三国志」という物語でも、お店/著者によって、テイストが全く異なります。

ラーメンは、スタンダードな醤油ラーメン、札幌の味噌ラーメン、博多のとんこつラーメン、横浜家系等々、大まかに分けることができます。

同じジャンルでも、フレンチのシェフが手掛けるラーメンに、和食割烹のまかないまで、お店によって味は違いますから、多種多様で、一つとして同じものはありません。「スープと中華麺」/「三国時代の人や物」という大枠さえあれば、何でもアリなのが、ラーメン/「三国志」なのです。

味は違うので、毎日食べても飽きませんし、お店ごとの工夫やこだわりに注目したり、食べ比べたりしても楽しいです。中国から入ってきて、日本でアレンジされ人気を博しているという点でも似ています。つけ麺、まぜ麺などのバリエーションは、アニメやゲームなどの隣接する「三国志」作品と言えそうです。

三国志の持つ、ラーメンの如きバリエーションと奥深さ(photo by iStock)

ラーメンのガイドブックや研究本のように、歴史も含めて、どんな特徴や味があるのか、私が詳しくご紹介していきます。「三国志」は、日本でどのように読まれてきたのか、日本の歴史にどうかかわってきたのか、どんな日本語の「三国志」があるのかという、いわば〝「三国志」の日本史〟の世界にご案内します。

日本における「三国志」の歴史を平易に説く本は、私が知る限り、雑喉潤『三国志と日本人』(講談社現代新書、2002年)しかありませんでしたが、絶版になってしまいました。

私は、中高生の頃、『三国志と日本人』を読んだことで、「三国志」を好きなのは私だけではないのだ、日本でもずっと読まれてきたのだ、と知ることができました。「どうやら私は、周りの子たちと違うものを好きになってしまったみたいだ……」という寂しさや引け目が和らいだ、大切な一冊です。

『愛と欲望の三国志』では、『三国志と日本人』以降の研究者の方々の論文の内容や、私が独自に研究してきた日中戦争下の「三国志」ブームなどの研究成果も盛り込みながら、〝「三国志」の日本史〟に迫っていきます。

世の中にたくさんある「三国志」関連本を読み尽くした方にも、きっと新しい発見をしていただけると信じています。

日本人が中国人を知るための鏡

〝「三国志」の日本史〟を知ってどうする、とお思いになる方もいるかもしれません。しかし、「三国志」と日本の交わりの深さを知ることで、なぜ「三国志」がいつの時代も求められるのか、日本でなぜこれほど長い間読まれてきたのかが見えてきます。

現在、日中関係が不安定な状態が長く続いていますが、過去に学ぶことも必要です。

中国政府が強権的な姿勢を強める中、漠然とした不安が広がっている、そんな現状に対し、過去のよりシビアな状況の中で、中国への理解を深めようとした先人たちの姿から学べることがあるのではないでしょうか?