新幹線清掃スタッフ「7分間の奇跡」海外の賞賛を手放しに喜べない理由

過酷な労働条件と表裏一体
川辺 謙一 プロフィール

また、東京駅の新幹線ホームでは、列車の運転本数に対して施設のキャパシティが不足しているので、「車両の整備」のための停車時間を12分しか確保できないことがある。旅客の降車と乗車には、双方合わせて最短でも5分かかるので、実際に「車両の整備」ができる時間は7分しか残されていない。

つまり、東京駅新幹線ホームでの「車両の整備」が最短7分で終わるのは、そうせざるを得ない必要に迫られた結果なのだ。これは、JR東日本が管理する東北新幹線ホームだけでなく、JR東海が管理する東海道新幹線ホームに関しても言える。

 

日本人の「特殊な働き方」

さあ、ここからが本題だ。「車両の整備」が最短7分で終わるというのは、果たして世界に誇れることなのだろうか。筆者は、「誇れること」と「誇れないこと」の両方の側面があり、これらは互いに表裏一体の関係にあると考える。

まず「誇れること」は、整備スタッフが与えられた業務をきっちりと遂行していることだ。整備の仕事は、鉄道を支える多くの仕事と同様に、毎回同じ作業を繰り返すルーチンワークであり、マンネリ化しやすく、士気が保ちにくい。にもかかわらず、整備スタッフたちは作業スピードを限界まで上げて、制限時間内に車両の整備を終わらせ、列車の定時運行を陰で支えている。

こうしたことは、日本では当たり前のことかもしれないが、海外に行った経験がある方なら、いかに特殊なことであるかがご理解いただけるであろう。そう、日本は労働に対する価値観が特殊なのだ。整備スタッフの働き方は、その特殊さが端的に表れた例と言える。

筆者撮影

この職場を紹介した書籍によれば、整備スタッフが服装に工夫を凝らしているのは、職場の風土改革の一環であり、新幹線の利用者にその服装を楽しんでもらえることが、整備スタッフの意識向上につながり、結果的に職場の雰囲気の改善や、離職率の低下にもつながっているという。

こうした試みは、東京駅の東北新幹線ホームに限定されるが、職場の風土改革の一例としてたいへん興味深い。米ハーバード大学経営大学院がこの職場を授業で紹介したのは、マンネリ化しやすい職場の活性化策として、企業経営の参考になるからであろう。