「全自動化」は幻想だ 「AIは仕事を奪う」について持つべき視点

連載2回「AIブームの次にくるもの」
松田 雄馬 プロフィール

仕事の「全自動化」が不可能な理由

ここで、1つのたとえ話を紹介したい。

とある職業の中で、お客様からいただいたデータを使って表計算をする作業があるとする。この作業を自動化するために、表計算ソフトであるMicrosoft Excelを使って、プログラムを書くとする。

短調な作業であれば、プログラムを書く手間も、それほど時間をかけずに済んでしまうかもしれない。弱い弱い人工知能(プログラム)は、こうして作られる。

さて、そうやって作った弱い弱い人工知能(プログラム)を、一度使い終わった後、しばらく使わずに放っておこう。すると、何が起こるだろうか……。

翌年、同じような作業内容をやらなければならない状況がやってきた。同じお客様から「この表計算をしてほしい。やり方は、1年前と同じで」という依頼が来たのだ。

1年前の当時は、プログラムを1から書かなければいけなかったので、それなりに苦労を伴ったが、今回は楽だ。同じプログラムを動作させれば良いのだ。なんという簡単な作業であることか。こんなもの、1秒で終わらせてしまおう。

さて、こんな風にタカをくくって、プログラムを動かしてみて、このプログラマーは愕然とする。

「プログラムが動かない!!」

 

よくよく見ると、お客様からいただいたデータのフォーマットが微妙に変わってしまっており、一行下にずれているのだ。

人間なら、気にする必要がないほどの(むしろ気づかずに作業を続けてしまうほどの)、微妙なフォーマットの変化である。

しかし、機械にとっては大問題である。プログラムには、「この行のデータを計算せよ」という命令が書き下されている。にもかかわらず、指定された行には、データがないのである。

そして、このプログラマーには、「プログラムを修正する」という新たな作業が発生する。もちろん、これ自体は、それほど負荷の高い作業ではないが、人間不在の「弱い人工知能」だけでは、「何もできない」状況である。

つまり、人間は、確実に必要なのである。

プログラミングPhoto by Annie Spratt on Unsplash

「職業」は消えない

表計算というきわめて単純な作業であっても、人間が管理することなしに、人工知能だけでそれを実施することは不可能なのだ。

こうした、人間にしかできない「作業」というものは、筆者のように能力が低い人間にとっては「頭を悩ませた経験」から、よくよく理解できるものである。だが、いかんせん、こうした「作業」を無意識レベルでこなしてしまう有能なビジネスマンには、なかなか理解するのが難しいのかもしれない。

たとえば、「人工知能」について一般向けに解説をしている『人工知能は私たちを滅ぼすのか』という書籍では、このような記述が見られる。

経理のように、数字に対して形式的なルールを適用する仕事は、そもそも創造性を発揮する仕事ではなく、発揮するべきでもありません。非常に人工知能に向いた仕事であり、人間が関わる余地は結果のチェックくらいになります。

この記述を見て、筆者は、かつてある職場で、経理部門が発行するExcel形式のフォーマットが毎年変更され、その対応に四苦八苦した経験を思い出した。

たしかに、フォーマットの変更への対応は、人間にとっては単純作業かもしれないが、機械にとっては、そう易しい問題ではない。

もちろん、フォーマットの変更をチェックするプログラムを書くことはできるが、そうすると、その「フォーマットの変更をチェックするプログラム」に書かれていない変更があった場合(行の変更だけではなく、項目の追加など……)には、その「『フォーマットの変更をチェックするプログラム』の変更をチェックするプログラム」を新たに書く必要があり、それすらも変更する場合は……という、堂々巡りが発生する。

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