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「全自動化」は幻想だ 「AIは仕事を奪う」について持つべき視点

連載2回「AIブームの次にくるもの」
2014年、ある論文が話題になり、その結果「10年後、AIの発展で人間の仕事は半減する」という話が広がった。だが5年が過ぎた現在、そこまで激しい変化は起きていない。あの「AIが仕事を奪う」という恐怖は幻だったのか?

いや、そもそも、現代の私たちが「これまでにない激しい変化の時代を生きている」という言説こそ、疑ってかかるべきではないか──。

気鋭の研究者にして経営者である筆者が、「消える職業」への不安を一掃する考察に挑戦する。

「自動化99%」への誤読

オックスフォード大学のオズボーン博士が「雇用の未来」 という論文を発表して以来、一時期は、「AIによって職業がなくなってしまう!」というような論調がメディアを席巻した。

「AIが仕事を奪う」という論調は、センセーショナルであり、いかにもメディアが好んで使いたがる表現であるため、その事実は、オズボーン博士の研究の本来の成果とは大きく歪められて伝えられてしまった。

AIブームが「幻滅期」に差し掛かったと言われている。それでも、AIへの過度な期待と不安が世の中に蔓延しているいま、改めて考えてみたい。

 

彼の研究とは何だったのだろうか。

実は、オズボーン博士が論文「雇用の未来」で記述したものは、各職業の「自動化できる割合」に関するランキングなのである。

このランキングをよく見ると、最も自動化される割合が低いものが「リラクゼーション・セラピスト」(0.28%)であり、逆に、最も自動化される割合が高いものが「テレマーケター(電話による商品販売員)」(99%)だという。すなわち、テレマーケターの行う「作業」は、その99%が置き換え可能ということである。

最も注意すべきことであるが、彼の記述は、決して、「テレマーケターが職を失う確率が99%」であるということではない。「テレマーケターは、その作業を99%の確率で自動化でき、効率的な業務が可能になりそうである」ということを意味するのだ。

テレマーケターIllustration by Stefano Bianchetti / Corbis / Getty Images

現在、自分の判断だけで動くことができる「強いAI」は存在しない。その一方で、私たちが利用可能な「弱いAI」は、あくまで、人間が使う「道具」である。

「強いAI」が存在しない以上、「道具」である「弱いAI」は、当然、「一人歩き」することはできない。従って、人間が行っているどんな仕事(職業)であっても、「弱いAIだけで代行する」ことは不可能なのである。

人間は、意識する、しないにかかわらず、わまざまな仕事を、自分の判断で進めることができる。

私たち人間にとっては、まるで「頭」を使わない「作業」に見えるようなものも、「機械」にやらせようとすると、意外な難しさがつきまとうことが少なくないのである。