Official髭男dismの大ヒット曲「Pretender」を同性愛から読み解く

JPOPと「クィア・リーディング」の可能性
阿部 幸大 プロフィール

「僕にとって君は何?」

つづいて映像も確認してゆこう。まずは1サビのシーン。1枚目で、主人公は左下に見切れている女性の方向を見ているのだが──

「Pretender」公式MVより
「Pretender」公式MVより

画面が切り替わると、彼の視線の先には男女2人がどちらも含まれていることが判明する。また、ラスサビでは、次の2枚のスナップ写真が連続で挿入される。

「Pretender」公式MVより
「Pretender」公式MVより

あきらかに、主人公の視線の対象が2人のどちらであるのか曖昧にするための並列であるとわかるだろう。これらが動画ではなく静止画として挿入されるのは、主人公が誰を見ているか誤解なく提示するための処置であるように思われる。

そして、いま引用した2つの場面は、どちらもまったく同じサビの歌詞に合わせて表示されている。その歌詞は、「それじゃ僕にとって君は何?/答えは分からない/分かりたくもないのさ」である。

 

この歌詞のポイントは、彼が問うのは「君にとって僕は何?」ではないという点である。彼の苦悩と問いは恋の相手に届けられてはおらず、彼自身にとって相手がなんなのか、その自問で完結している。

その問いにはたとえば「好きな人」だと答えられるにもかかわらず、彼が「分からない」と言うのは、同性愛を通常の恋愛として認定しない「設定」の「世界」に彼が住んでいるからなのだろう。だから彼は吐き捨てるように「分かりたくもない」と付け加えるのだ。

そして愛を伝えることの不可能を、あるいはカミングアウトの不可能を苦く噛みしめながら、彼は「君は綺麗だ」というジェンダー・ニュートラルな叫びにすべてを託すことに甘んじて、「グッバイ」と告げようと決意するのである。