Official髭男dismの大ヒット曲「Pretender」を同性愛から読み解く

JPOPと「クィア・リーディング」の可能性
阿部 幸大 プロフィール

「三角関係」の予感は…

「Pretender」はラブソングである。歌詞のなかに語り手のジェンダーを決定できる要素はサビまでしばらく現れないが、ボーカルが男性の藤原であること、ならびにMVが男性を主人公に据えていることから、「君とのラブストーリー」という冒頭を聞いた瞬間に、リスナーは男性の恋愛主体と、女性の恋愛対象である「君」を想定することになる。

「Pretender」は同時に、失恋の歌でもある。たとえば1番のサビの「グッバイ/君の運命のヒトは僕じゃない/辛いけど否めない/でも離れがたいのさ」という歌詞には、いかにも典型的な、友達以上・恋人未満の苦しみが表現されている。

 

MVも観ておこう。このビデオでは、台北の建物の屋上で曲を演奏する髭男メンバーと、台北の街で遊ぶ7名の男女の1日とが交互に映し出される。後者はさきに「主人公」と述べたイケメンに焦点化しており、オレンジの服を着た黒髪の快活な美女が彼の恋愛対象であると、誰もが理解できるように撮られている。

「Pretender」公式MVより

MVにはもうひとり、短髪の男性(やはりイケメン)が登場する。下のスクリーンショットは右の主人公が最初に映る場面で、左の男性は彼と同時に現れる。MVを観終わったときには、この2人の男性と上述の女性、あわせて3人が記憶に残るだろう。

「Pretender」公式MVより

左の男性の導入によって鑑賞者がまず感じるのは、もちろん主人公と彼のクィアな恋愛関係などではない。むしろ、わたしたちは漠然と、主人公の恋が成就しないのは彼女がこの男性と最終的に結ばれるからではないか、と推測することになる(そう思わなかったあなたは丁寧な鑑賞者である)。

この推測は、(1)主人公の失恋というストーリー、(2)男・男・女という3人のキャラクター、(3)仲のいい男女グループ内での恋愛、という要素を考慮に入れるとき、構造的に避けがたい読解である。

では、ここからクィア・リーディングに向かうための第一歩として、つぎの着眼点から始めてみよう。仮に「主人公の失恋」という文脈を無視するとき、MVの映像から、この短髪の男性と女性とのあいだに恋愛関係らしき雰囲気を読みとることは、本当にできるだろうか?

これは、おそらく不可能なのである。

いかに異性愛のコードに基づいてわたしたちが世界を歪めて観ているか──その自覚から、クィア・リーディングは始まる。