2019.09.05

動物にやさしかった子どもが史上最悪の大量虐殺を実行するに至る経路

赤ん坊のヒトラーを殺しますか?
ジュリア ショウ

脳における悪の作用

それではヒトラーの脳を想像で再現してみよう。彼に強い非人間化の傾向があったことを考えれば、これを司る脳の領域がひどく冒されていた可能性がある。ライマンとジンバルドーによれば、没個性化と非人間化は「腹内側前頭前皮質、扁桃体、脳幹構造(すなわち視床下部と中脳水道周囲灰白質)といった脳領域のネットワークと関連している可能性がある」。わかりやすいように彼らはモデルのイメージを提供しているので、ここに再現しておく。

彼らのモデルが示唆するのは、自分が大きな集団の一部にすぎないと感じると、自分は匿名の存在で、行動によって非難されないと考え、やがて他者に危害を加えるようになることだ。ここで彼らが考えた脳における悪の作用を説明する。

<没個性化>
自分自身をひとりの人間として考えるのをやめ、集団の名もなき一部として認識する。すると自分の行動に個人として責任を取らなくてもよいように感じる。このことが腹内側前頭前皮質(vmPFC(図の1の部分))の活動を低下させる。そしてvmPFCの活動低下は攻撃性とよくない意思決定につながり、脱抑制行動や反社会的行動を引き起こす可能性があるとわかっている。

<非人間化>
この活動低下には、脳の感情を司る領域である扁桃体(同2)の活性化が伴う。この状態は怒りや恐怖といった感情につながる。

<反社会的行動>
その後、こういった感情は脳幹(同3)を経由し、心拍数の増加、血圧の上昇、直感の鋭さといった他の興奮(同4)を引き起こす。このような変化は必然的に体を闘争・逃走モードに入らせる――身体に危害が加えられることを予測し、生き残るための準備に入るのだ。

 

vmPFCの活動が低下した人ではこの経路が強化されるとされ、そのことは犯罪者を調べた研究でしばしば確認されてきた。甲状腺が不活発になれば、代謝に問題が起き、太りやすくなるように、ライマンとジンバルドーら研究者たちの考えでは、vmPFCが不活発になれば、道徳的判断に問題が起き、犯罪やその他の反社会的行動をおこないやすくなる。ふたりはこうまとめている。「攻撃性の研究が示唆するのは、前頭葉構造、特に前頭前皮質が不活発になったり、この脳領域に病変があったりすると、それが攻撃性の主要な原因になり得ることだ」

ヒトラーの脳は一見、正常に見えるだろう。しかし道徳的判断をさせれば、vmPFCの不活発さと共に、一般的なパラノイアと不安神経症を示すものが見えるのかもしれない。とはいえ、知られているように彼には大きな異常も脳損傷もなかったことを考えれば、ヒトラーの脳スキャンは平均的な正常な脳と違うとはまずいえないだろう。あなたのことをまったく知らなければ、私はあなたの脳スキャンとヒトラーの脳スキャンを区別することもできないだろう。

(第1章「あなたの中のサディスト――悪の神経科学」より。翻訳:服部由美)

ジュリア・ショウ著『悪について誰もが知るべき10の事実』

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