2019.09.05

動物にやさしかった子どもが史上最悪の大量虐殺を実行するに至る経路

赤ん坊のヒトラーを殺しますか?
ジュリア ショウ

没個性化と非人間化

レートリヒは、幼いヒトラーが特別に問題のある育ち方をしたという意見に反対し、そうだったと推測する心理歴史学者たちを批判している。どうやら育ち方がヒトラーののちの行動の原因になったとは推測できず、ヒトラーが精神に異常をきたしていたかどうかに対する答えは、不満が残るが「ノー」であるらしい。

こういった事例がよくあることがわかっている。凶悪犯罪を実行したからといって、その人に精神疾患があるとは限らない。そんな犯罪をおこなう人は誰でも精神に異常があると決めつけては、そういった行為の加害者から個人責任を取り除き、精神疾患にやっかいなレッテルを貼ることになる。するとヒトラーのような人たちはどういうわけで、そんな恐ろしいことができるのだろう?

「人間の悪の神経科学」に取り組む心理学者マーティン・ライマンとフィリップ・ジンバルドーは、人に恐ろしい行為ができる理由についてまた別の発想をした。二〇一一年に発表した論文『The Dark Side of Social Encounters(人との出会いの邪悪な側面)』の中で、著者たちは脳のどの領域が邪悪さと関連があるのかを立証しようとしている。

彼らは没個性化と非人間化というふたつの過程が最も重要だという。没個性化は自分自身の匿名性に気づいたときに起こる。非人間化は他者を人間として見ることをやめ、人間以下の存在とみなしたときに起こる。さらに著者たちは非人間化を、対象をぼんやりとしか認識できない「皮質白内障」になぞらえて説明している。相手をしっかり見ることができなくなるのだ。

 

この状態が起こるのは「悪い奴ら」のことを話すときだ。この呼び方が相手の人間性を奪う。世の中には「悪い」人間ばかりの集団が存在し、彼らは自分たちとは違うと決めつける。この二分法では、もちろん自分たちは「正義の人たち」――倫理的に正しい判断を下す別の人間の集団となる。世の中を善人と悪人に分けることは、ヒトラーが好んだやり方のひとつだった。

さらに悲惨なことに、議論が進むと標的が「悪い人」の集団どころか人間ですらなくなった。非人間化の劇的な例は、ヒトラーの大量殺人プロパガンダの中に見られた。ユダヤ人を劣等人種、つまり人間以下と表現したのだ。ナチは標的とした他の集団を獣、虫けら、病気になぞらえることもしている。

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