Photo by iStock

動物にやさしかった子どもが史上最悪の大量虐殺を実行するに至る経路

赤ん坊のヒトラーを殺しますか?
人は誰もが罪びとだ。これを完全否定できる人はたぶん、いないだろう。読者の中にも心の底に、社会的にはけっして許されないとわかっている欲望を密かに抱えている人がいるのではないだろうか。とすると、実際に目にする「邪悪」な事件は、どんな人物が、どんな脳と心の働きで実行に及んだのだろうか。彼らは私たちとは違う「モンスター」なのだろうか。9月10日発売の新刊『悪について誰もが知るべき10の事実』の著者で、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの犯罪心理学者であるジュリア・ショウ氏は、警察や軍での仕事を通じて、みずからを「モンスター狩りがおこなわれる世界からきた」という。
「それは警察官や検事、一般の人たちが集団で復讐しようと、殺人犯やレイプ犯を探しまわる世界のことだ。彼らが狩りをするのは、社会組織を守り、悪事を働いたとされる者たちを罰したいからだ。ところが困ったことに、そういったモンスターが実際には存在しない場合がある」(『悪について誰もが知るべき10の事実』はじめに)
「モンスター」は誰なのか? 「悪」を排除するのではなく、むしろ「悪」を理解し共感することは、巡り巡って自分がこれからおこなうべき行動の指針になる。そんな趣旨で書かれた本書から、まず「善人」と「悪人」を分けたがる、どうしようもない脳のはたらきについて、抜粋をお届けしたい。

人間のDNAには邪悪さが埋め込まれている?

人は悪について語るとき、ついヒトラーのことを考えてしまう。これは意外ではないだろう。ヒトラーは、大量殺戮、破壊行為、戦争、拷問、ヘイトスピーチ、プロパガンダ、非倫理的な科学実験といった、人に悪を連想させる行為を数多くおこなったからだ。歴史と世界は彼の記憶によって永遠に汚されるのだろう。

一般的な悪とヒトラーを無意識に結びつける傾向は、日常的な人間のやり取りにもうかがえる。誹謗中傷が飛び交う会話の中で、他の人たちが賛成できない意見を主張する人のことを、「ナチ」「ヒトラーみたい」と呼ぶことはよくある。オンラインの議論が長引けば、最後にはヒトラーが引き合いに出されることもある。

ヒトラーが直接的、間接的に引き起こした破壊行為があまりに多種にわたり、その爪痕があまりに深いため、どの書籍も彼の動機、人格、行動について言及してきた。人びとは長い間、彼がなぜ、どのようにして、歴史書の暗いページに載っているあの男になったのかを知りたがってきた。ここでは彼の行動の詳細を分析するのではなく、たったひとつの質問に焦点を絞りたいと思う。過去に戻れるとしたら、あなたは赤ん坊のヒトラーを殺害するだろうか?

このひとつの質問に対する答えから、あなたについて多くのことがわかる。答えが「イエス」なら、恐ろしいおこないをする性質は生まれつきで、人間のDNAには邪悪さが埋め込まれているとおそらく信じている。答えが「ノー」なら、おそらく人間の行動についてあまり決定論的な考え方をしない。どんな大人になるかには、環境や生い立ちが決定的な役割を果たすと考えている。あるいは赤ん坊を殺しては世間から非難されるから、「ノー」と答えたのかもしれない。

 

どちらにしろ、その答えは非常に興味深いと思う。しかし、そこにしっかりした根拠があるとはいえないだろう。なぜなら、恐ろしい幼子が恐ろしい大人になるかどうか、本当にあなたにわかるだろうか? そして、あなたの脳とヒトラーの脳はそんなに違うだろうか?