人は悪について語るとき、ついヒトラーのことを考えてしまう。これは意外ではないだろう。ヒトラーは、大量殺戮、破壊行為、戦争、拷問、ヘイトスピーチ、プロパガンダ、非倫理的な科学実験といった、人に悪を連想させる行為を数多くおこなったからだ。歴史と世界は彼の記憶によって永遠に汚されるのだろう。
一般的な悪とヒトラーを無意識に結びつける傾向は、日常的な人間のやり取りにもうかがえる。誹謗中傷が飛び交う会話の中で、他の人たちが賛成できない意見を主張する人のことを、「ナチ」「ヒトラーみたい」と呼ぶことはよくある。オンラインの議論が長引けば、最後にはヒトラーが引き合いに出されることもある。
ヒトラーが直接的、間接的に引き起こした破壊行為があまりに多種にわたり、その爪痕があまりに深いため、どの書籍も彼の動機、人格、行動について言及してきた。人びとは長い間、彼がなぜ、どのようにして、歴史書の暗いページに載っているあの男になったのかを知りたがってきた。ここでは彼の行動の詳細を分析するのではなく、たったひとつの質問に焦点を絞りたいと思う。過去に戻れるとしたら、あなたは赤ん坊のヒトラーを殺害するだろうか?
このひとつの質問に対する答えから、あなたについて多くのことがわかる。答えが「イエス」なら、恐ろしいおこないをする性質は生まれつきで、人間のDNAには邪悪さが埋め込まれているとおそらく信じている。答えが「ノー」なら、おそらく人間の行動についてあまり決定論的な考え方をしない。どんな大人になるかには、環境や生い立ちが決定的な役割を果たすと考えている。あるいは赤ん坊を殺しては世間から非難されるから、「ノー」と答えたのかもしれない。
どちらにしろ、その答えは非常に興味深いと思う。しかし、そこにしっかりした根拠があるとはいえないだろう。なぜなら、恐ろしい幼子が恐ろしい大人になるかどうか、本当にあなたにわかるだろうか? そして、あなたの脳とヒトラーの脳はそんなに違うだろうか?