高齢の家族が「転んで死んでしまった」遺族たちの悲しみと悔恨

坂道を転がるように具合が悪くなる
週刊現代 プロフィール

本誌の取材に対して、桑原恵子さん(59歳、仮名)は何度もその言葉を繰り返した。

父・滋さん(享年81)と母・芳江さん(享年83)を相次いで失い、二人の死に際に居合わせた彼女は何を見たのか。

「父の肺がんが発覚したのは、亡くなる3年前のことでした。母と一緒に受けた人間ドックで撮ったレントゲンに影が写っていたんです。すぐに切除手術を受けましたが、1年後には再発。抗がん剤や放射線治療など手を尽くしましたが、がん細胞が消えることはありませんでした。

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でも、父はがんが判明してから亡くなるまで、家族との残された時間を大事にしてくれた。遺産相続などの問題についても、きちんと話し合うことができました。父が亡くなったときは悲しかった。でも、ある程度納得した形で死を受け入れることもできたんです」

ところが、母の芳江さんが倒れたときは事情がまるで違ったという。芳江さんは夫である滋さんが逝去した後に、近所の老人ホームに入居。施設で生活を送っていた。

 

「母が老人ホームの玄関で転倒したのは5ヵ月前。施設はバリアフリーになっていましたが、玄関で靴を脱ごうとする瞬間に体重移動が上手くいかず転んでしまったんです。

すぐに救急車で運ばれましたが、腰と背中の骨が折れてしまっていた。もう高齢で体力が低下していたこともあって、大がかりな手術は見送られました。先生の判断で、安静にして自然治癒を待つことになったんです」

死に支度が一切できない

ところが、転倒で一気に高齢者が衰弱するのは、これまでの実例を見ての通り。芳江さんも同じように、みるみる元気を失っていった。相続の準備をしようにも、がんで亡くなった父と違い、歩けないから家のなかで書類を探すこともままならない。

そのうち、認知機能も衰え、話も通じなくなってしまった。これも最期まで脳機能はしっかりしているがんとの大きな違いだ。

「がんは治療で進行を遅らせることができる。その分、父も自分の人生を顧みる時間があった。遺される家族も気持ちの準備ができました。

ですが、転倒事故はその瞬間からすべて変わってしまう。結局、母は転倒してから2ヵ月で心筋梗塞を起こし死んでしまった。私自身も、いまだになにが起きたのか受け止められない状態です」