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高齢の家族が「転んで死んでしまった」遺族たちの悲しみと悔恨

坂道を転がるように具合が悪くなる

2ヵ月でまるで別人に

「父親が転んだことで寝たきりになって死んでいくまで、本当に一瞬でした。本人も気持ちの糸がプッツリと切れてしまったようだった。生きる気力をなくした父がみるみる衰弱していく様子を見るのは、息子としては辛かったですよ。

父は自分に厳しい人で、生前も母や私たちに迷惑はかけられないと、身の回りのことはできる限り自分でこなすように心掛けていた。家族に格好悪いところは見せられないと、人一倍気を張って生活していたんでしょう。それだけに、一度治療やリハビリを諦めてしまうと、転落していくのはあっという間でした」

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こう語るのは、実父・小林孝明さん(享年78、仮名)を看取った息子の智之さん(47歳)だ。

一度転倒事故を起こしてしまうと、それまで築き上げてきたすべてのものがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。坂道を転がるように具合が悪くなり、最後には命を落としてしまう。智之さんが目にしたのも、そんな父の姿だった。

孝明さんが転倒し寝たきり生活を送ることになったのは2年前のこと。30年ぶりに大学の同窓会が開かれた日を境に、人生のすべてが変わってしまったのだ。

 

この日、大学時代の友人たちと東京・渋谷で久々にお酒を酌み交わした孝明さんは酔っぱらったまま帰路に就く。渋谷駅から自宅のある井の頭線の電車に乗るため、駅の雑踏を歩いていた。

折しもこの日は金曜日。孝明さんは手すりに掴まりゆっくりと階段を下っていた。だが、帰宅ラッシュで逆方向から階段を上ってきたサラリーマンたちの渦に飲み込まれ、バランスを崩し転倒してしまった。

「70歳を超えていたとはいえ、父は矍鑠としていた。それだけに渋谷駅で転んだと聞いて驚きました。父はこの転倒で大腿骨を骨折。入院生活を送ることになりました。

病院のベッドで寝たきりになってから、父が嘘のように気弱になってしまった。リハビリをしようと言っても、拒否するんです。病院には母が通い詰め、付きっきりで看病していました。でも、その甲斐も虚しく、入院から2ヵ月で脳梗塞を発症。そのまま逝ってしまいました。

私にとって父はいつも自信に溢れ、どんな困難にも立ち向かう強い存在だった。それだけに最期の姿は見るに堪えないものでした」