「転んで死ぬことになった」60代以上の人たち…その悲しすぎる結末

60すぎたら、転んではいけない
週刊現代 プロフィール

骨折しなくても危ない

和夫さんの認知症は日に日に悪化し、最終的には文子さんとまともにコミュニケーションが取れないほどになる。そして寝たきりのせいで誤嚥性肺炎を繰り返すようになり、転倒から1年後には力尽きるように息を引き取った。

和夫さんのようなケースは特殊ではない。彼のように転倒が原因で病院に運び込まれる高齢者は後を絶たないのだ。

 

東京消防庁が発表している'17年のデータを見ると、65歳以上の高齢者で転倒によって救急搬送された人数は5万5614人。全救急搬送件数の82・3%を占めている。これは全国の話ではない。東京消防庁が管轄している、都内だけの数字だ。

さらに厚労省の人口動態調査最新データでも、転倒による死者数は年間9673人と記録されている。これは交通事故死のおよそ倍。和夫さんのように、転倒では亡くならずとも転んだことが原因で衰弱死した事例を考えると、その数は何倍にも膨れ上がるだろう。

転倒というと階段を踏み外したり、外で派手に転んだりする事故を思い浮かべる。だが、実際は違う。ほんの些細なことで人は転び、死んでしまうのだ。

愛知県に住む重田達夫さん(72歳、仮名)。彼もまた半年前、妻の千恵子さん(享年70)を転倒で亡くしたばかり。

千恵子さんの場合は、畠山さんのように躓いて転んだのではない。少し体をひねっただけで命にかかわる転倒事故を起こしてしまったのだ。

「1年前、妻が自宅で家事をしているときのことでした。昼食の準備をするため、台所の食器棚に仕舞ってあるお皿を取り出そうとしたんです。

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妻は取り出した皿を1mほど離れたキッチンに置こうとした。その際、体をねじって90度回転させました。たったそれだけです。その動きだけでバランスを崩し、転んでしまいました。同時に持っていた皿が割れて左肘を切ってしまった。10針を縫う怪我でした。

妻は縫うほどの傷を負いはしたものの、骨折はしなかった。その点は胸を撫でおろしました。

ですが、3ヵ月後。自宅に戻って生活を送っていた妻に、頭痛や失禁などの症状が出始めた。転倒した際に頭を打ちつけ、時間差で慢性硬膜下血腫を起こしていたんです」