自分の遺影はありますか? 死を迎える前にしておきたい全準備

大変だけど、やる価値はある
週刊現代 プロフィール

納得できる最期を迎えるために

死期が近づき、自分の人生を振り返った時に、「あれをやっておけばよかった」と後悔する人は少なくない。「納得できる最期」を迎えるためには、なにをしておくべきか。

日本看取り士会会長の柴田久美子氏は、基本的な心構えとして「死を意識するようになったら、やりたいことをやって悔いを残さない人生を送ることを心がけるべきだ」という。

「余命1ヵ月と診断された末期がんの78歳の男性は、最期の時を自宅で過ごしたのですが、『プリンが食べたい』と奥さんに伝えても『お砂糖が体を冷やすからプリンはダメ』と断られていました。

私は、死の間際には好きなものを好きなだけ食べるほうがいいと思っていますので、奥さんと話し合ったうえで、プリンを食べてもらいました。その時に男性が浮かべた幸せそうな表情はいまも忘れられません。

ただ、医師や家族によっては死の直前に食べたいものを食べさせてくれないこともある。健康なうちに、食べたいものを食べ、行きたいところに行っておくべきです」

死を迎えるのは誰にとっても怖いもの。じたばたせずに、死を受け入れるためにできることはある。湘南ホスピタルの奥野滋子医師は「最期に着る服を選んでおくと、死を迎える心構えが変わってくる」と言う。

「90歳の女性が入院してきたときに、風呂敷に包まれた着物を出して、『私が死んだら、この服に着替えさせて送ってください』とおっしゃった。『きれいな姿で旅立ちたい。死の瞬間は突然訪れるから、事前に決めておいたの』とのことでした。

死の瞬間を少しでも華やかなものに変えたことで、満足げな表情を浮かべて最期を迎えていらっしゃいました」

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奥野氏は、会いたい人に会っておくことも重要だと説く。特に、家族や友人とのわだかまりを抱えている場合、面倒でもそれを解消しておくべきだと提案する。

「大切な人とケンカをしたままだと、亡くなる間際までそのことを悔いる人が多いんです。私が看取った70代の男性は、とある事情から妻と息子を置いて家を出てしまい、ずっと息子さんと縁が切れた状態でした」

生前、とにかくひと言息子に謝りたいと、男性は伝手を辿って病院に息子さんを呼び寄せた。ペンを握る力もないほどに弱っていたが、ミミズの這ったような字で息子さんにお詫びの言葉を書いた手紙を渡したという。

「ところが息子さんはそれを読むなり、ビリビリに破いてしまった。簡単に許せるものではなかったのでしょう。しかし、その患者さんは『息子が俺を許さないのは当然だ。それでもいいから、とにかく謝りたかった』と言うんです。

その10日後に男性は亡くなりましたが、息子さんに謝ることができなかったら、未練を残したまま最期を迎えたでしょうね」(奥野氏)

 

最も望ましいのは、最期の瞬間まで人生の目標を持つことだ。ホームオン・クリニックの平野国美院長は、急性骨髄性白血病の患者がやってきたときのことを回想する。

「その患者さんは歯磨きをするだけでも息が切れてしまうというほど体力が落ちていて、先が長くないことは家族もわかっていました。

ある日、その患者さんが私にこう言うのです。『11月、地元の市民音楽祭があるんですが、それに出場したい』と。

歌が大好きな患者さんでしたが、人生最後の思い出に、音楽祭に出たいということでした。生きる希望を失わせるわけにはいかず、応援することにしました」

迎えた音楽祭当日。会場の舞台に、酸素吸入の管をつけたその人の姿があった。アンディ・ウィリアムスの『ムーンリバー』を歌いあげると、観客から万雷の拍手が送られた。

その2ヵ月後、男性は静かに息を引き取った。

「本当はもっと早くに亡くなってもおかしくなかったのですが、音楽祭のために毎日練習をしたことが、人生に刺激を与えたのでしょう。

ご家族や担当医らに何度も『人生の最後に望みがかなった。どんな薬よりも効果があったよ』と言ってお別れされました」

「やり残したことは何もない」と言い切るのは難しくとも、漫然とその日を迎えるのは避けたい。「納得できない」と後悔したところで、誰も死から逃れることはできないのだから。