器の「初音ミク」と生身の「キズナアイ」2人を隔てる「差」の正体

ヴァーチャル世界の女王になるのは…
片野 浩一 プロフィール

「私は存在理由を見つけたい」

「ユーザー・コミュニティ」とは顧客やユーザーが集まる場であり、情報交換や交流を行う場所である。

「キズナアイ」のコミュニティはわかりやすい。これまでのミュージシャンやアイドルグループを応援するファンクラブと同様の集まりとして理解できるからである。

ユーザーは、「キズナアイ」が提供するプロのコンテンツを楽しむ(「キズナアイ」はマネジメントするエージェント企業、Activ8株式会社に所属している)。動画を視聴したり、VR(virtual reality:仮想現実)のライブに参加して投げ銭と呼ばれる花束やプレゼントの形の課金をしたり、またグッズを買ったりして応援する。その関係は、あくまで売り手と買い手の立場であり、「キズナアイ」とそのエージェント企業は、ビジネスとして活動を収益化(マネタイズ)する仕組みを持っている。

 

これに対して、「初音ミク」のコミュニティは顧客や買い手としてだけでなく、創作活動にも参加する。「初音ミク」が歌うオリジナル曲とその二次創作、またイラストや動画を描き、協働でコンテンツを創作していく。

つまり「初音ミク」のユーザーは、作り手にもなるクリエイティブ・ユーザーである。コミュニティの中で多様な「初音ミク」が生まれてコミュニティ全体で受け入れて応援する特異な場所と空間が定着して、「初音ミク」が生きる世界となってきた。

しかし、人格を持つ「キズナアイ」のコミュニティでは、そうした多様性は今のところ受容されていない。人気アイドルグループのファンがそうであるように、白石麻衣と名乗る別人のアイドルが乃木坂46グループに新たに加入して許されることはないだろう。「白石麻衣」は、彼女固有のネーミングであり、唯一無二の存在だからである。

「キズナアイ」はどうか。今年5月に公式チャンネルの動画で4人の人格と中身に「分裂」したことが、ファンユーザーの間で物議を醸し出した。これまでの「キズナアイ」を「初代の人、1号」と呼んで分裂を批判するファンの声がある一方、うち1人は中国語に堪能で、bilibili動画で人気が出ているようである。

2019年5月25日、A.I.Channelに投稿された動画「キズナアイが4人いるって言ったら信じますか? #1」

コンテンツとしての「白石麻衣」と「キズナアイ」の違い。それは、ビジュアルがリアルかデジタルか、という点と、ビジュアルと中身が一体か分離されているかどうかであろう。

ビジュアルがデジタルで、かつ中身と分離している。ここに、「初音ミク」と同じとは言わないが類似点を見いだすことができ、VTuberが生きる世界として、ユーザー・コミュニティの新しい形が生まれてもよいのではないだろうか。

分裂動画のなかで、彼女は「私は存在理由を見つけたいのだ」と語る。これはすべてのユーザーに投げかけるメッセージであり、存在理由を見つけるのは作り手ではなく、ユーザー・コミュニティ側に委ねられているのではないのか。コミュニティの創造力が問われている。