器の「初音ミク」と生身の「キズナアイ」2人を隔てる「差」の正体

ヴァーチャル世界の女王になるのは…
片野 浩一 プロフィール

筆者は、そうしたボカロコンテンツが二次・三次・四次と連鎖的に創発されてニコニコ動画のようなコミュニティが活性化する現象(これを「N次創作」と呼ぶ)を、投稿データの取得と分析から科学的に観察した。下の図は、中心にあるオリジナル曲とそれを参照して二次創作が矢印でつながるネットワーク分析の例である。

ピアプロに投稿された「初音ミク」オリジナル楽曲3つに対して、別の作品が二次創作として投稿された姿を描いたネットワーク図(『コミュニティ・ジェネレーション―「初音ミク」とユーザー生成コンテンツがつなぐネットワーク』から引用)

ただし、この二次創作の行為そのものは、著作権法に定める「翻案権」「二次的著作物の利用権」に該当して法律の規制対象になる

「翻案」とは、オリジナルの著作物にある物語やデザイン、キャラクターなどの表現を使い、これに改変を加えて新しい著作物を創る行為であり、そこから創造されたものが二次的著作物である。ポケモンやスーパーマリオなどの人気キャラクターを一般ユーザーが二次創作して公開するには、常に原著作者からの許諾が必要になる。

しかし、「初音ミク」の著作権を有するクリプトン社は、この二次著作物をユーザーが一定範囲で自由に投稿できるガイドラインを作成し、あらかじめ、楽曲やイラストを同社運営の投稿コミュニティ「piapro」に投稿するオリジナル作者にその権利を選択する仕組みを取り入れた

 

これは「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」と呼ばれ、著作権管理の運用を弾力化し、他者が作品を二次利用する条件として、オリジナルの権利者に「表示」「改変禁止」「非営利」「継承」の4つの組み合わせ、計6つのライセンスを用意し、各権利者がどの範囲まで権利を保持し、どこまで権利を開放するかを自由に決めるルールである。インターネット時代におけるデジタルコンテンツの法的制度を先取りする形で、「初音ミク」はクリエイティブな創作活動の拡大にも貢献した

このように、「初音ミク」にはバーチャルシンガーというビジュアルな顔の裏に、民主的な二次創作を生みだすユーザー・コミュニティの存在や、これを支える柔軟なライセンス運用の仕組みがあったことを指摘しておきたい。これらのインフラや情報環境、またクリエイターの様々な経験価値の上に「キズナアイ」は登場した。