器の「初音ミク」と生身の「キズナアイ」2人を隔てる「差」の正体

ヴァーチャル世界の女王になるのは…
片野 浩一 プロフィール

価値の複合体である「初音ミク」

さて、動画配信・共有サイトで活躍するバーチャルなキャラクターといえば、「初音ミク」を想起する人も少なくないだろう。

「初音ミク」と「キズナアイ」。前者はバーチャルシンガー、後者はバーチャルエンターテイナーという職業の違いはあるものの、動画サイトに登場してパフォーマンスする姿をみるかぎり、どちらもバーチャルなアイドルと考える人も多い。「初音ミク」には中身がないが、「キズナアイ」には中身が存在する。こう言ってしまえばそれまでだが、2人の違いを考えるために、まずは先輩である「初音ミク」の理解が参考になるだろう。

「HATSUNE MIKU EXPO 2018 EUROPE in Paris」の様子

「初音ミク」とは歌声合成ソフトウェアを使ってユーザーが歌を作成し、これにキャラクターを付与したものであるが、筆者は「価値の複合体」として捉えている。

それには4つの側面があり、(1)まず、ヤマハ株式会社が開発して提供する歌声合成エンジン「VOCALOID」とこれを元にクリプトン・フューチャー・メディア株式会社が発売した歌声合成ソフトウェアである。(2)そのパッケージに描かれた「キャラクター」からイラストとその権利(キャラクターの権利や著作権)が生まれた。(3)その後に「バーチャルシンガー」として活動を開始してアイドル並みのコンサートを展開するようになる。(4)さらに「初音ミク」は「コミュニティ」として拡大を続けた。ユーザーがニコニコ動画に投稿した「初音ミク」楽曲と動画から別のユーザーが二次創作物を創り、コミュニティの中で増殖的に拡大した。

 

興味深いのは、(1)から(4)に向かって、企業や運営側からユーザー側に主導権がシフトしていくことである。「コミュニティ」の側面は、ソーシャルメディアやオープン・メディアという環境と親和しながらユーザー主導のパワーが創り上げた世界である。

ここで言う「二次創作」とは、オリジナル作品の楽曲やイラストを別の作者が改変する行為である。「初音ミク」の二次創作物を創るユーザーは、オリジナルから自分なりの「初音ミク」を創る、いわば“育ての親”となり、その親同士で互いの子供を応援する形で、初音ミクのコミュニティは成長して社会現象になった