私があの時、同意書にサインしなかったら。生きてほしいと願わなかったら。母は死ぬより辛い生き地獄を、味わわなくて済んだのに。どうしよう、取り返しがつかないことをしてしまった――強烈な焦りを抱えながらも、母には言い出せずにいました。

そんなある日、母に外出許可が降りました。少しでも気が晴れればと、私は母を街へ連れ出しました。

「ママはもう限界。生きているのが辛い」

私が母の車いすを押して歩きました。最初のうちは母も楽しそうだったのですが、だんだんと表情が曇っていきます。カフェ。レストラン。服屋さん。かつて母と通い慣れたお店には、すべて階段がありました。歩いていた頃は気にならなかった10数センチの段差が、車いすを阻みます。

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人混みで、母の車いすは何度も人にぶつかりました。

「ごめんなさい」「すみません」「通してください」

気がつけば私たちは、周りの人たちに謝ってばかりでした。

歩き回って、ようやく車いすで入れるカフェを見つけた頃、身も心もクタクタでした。席につくなり、母が泣き出しました。

「ごめんね。奈美ちゃんにずっと言えなかったことがある。ママはもう限界。生きているのが辛い。ずっと死にたいって思ってた

私が初めて見た、母の涙でした。