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「生きている重み」を教えてくれた、10人のノンフィクション作家

河合香織「人生最高の10冊」

今まで何を見てきたのだろう…

今回の10冊はノンフィクションの魅力を多くの人に知ってもらいたいと思って選びました。1~3位はこんな物書きになりたいと憧れている女性作家、6~10位は現役で活躍しているノンフィクション作家の作品をあげています。

私は神戸の大学に通っていたとき、阪神・淡路大震災に遭いました。当日は成人式のため帰省していたのですが、その後戻ると家や建物や道路は崩壊し、親しくしていた人は亡くなり、街も人も大きく変わっていました。

1995年1月17日に起こった阪神淡路大震災(Photo by gettyimages)

昨日までの世界がたった一日で崩壊してしまったときに出会ったのが井田真木子さんの本でした。彼女の作品は、一見平和で安全に見える日本で、不可視な存在にされている人たちがいることを教えてくれました。

井田真木子著作撰集第2集』にはとくに好きな作品・中国残留孤児二世のことを描いた「小蓮の恋人」や「ルポ十四歳」が入っています。

「ルポ十四歳」ではストリート・サヴァイバーと呼ばれる日本の若者が登場します。彼女たちは発展途上国のストリート・チルドレンとは違って帰る家はあるけれど、抜け出すことができずにもがいているのです。

ぼんやりと暮らしてきた自分は何を見てきたのだろう、と新しい目を開かされました。そして本書の中の「一人ではなくて、群れで生き残りたい」という言葉を見たときに、私自身も群れで生き残りたい、そのために何かを書きたいと思い、ノンフィクションを志すきっかけになりました。

 

戦争は女の顔をしていない』のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんはノンフィクション作家で初めてノーベル文学賞を受賞されています。いつかこんな本を書きたいと思いました。

ソ連では第二次世界大戦で、女性も従軍して武器を手に戦いました。しかし戦後、男の兵士たちは英雄視される一方、彼女たちは女のくせに野蛮な人間と白い目で見られ続けました。著者は500人以上の従軍女性を取材し、男の言葉で語られてきた「戦争」を女たちの言葉でとらえなおそうと試みます。

例えば戦場で赤いタオルを頭に巻いて危ない目に遭った女性兵士がいます。彼女は母親から「女の子が髪を濡らしたままでいるのはみっともない」と言われ、その教えを戦場でも守っていたのです。

こうした女性たちの言葉を丹念に拾い、あるいは言葉を持たない彼女たちの中から言葉を導き出すことによって著者は、人間同士が殺し合う戦場という修羅場においても、人としてあり続けようとする人間の心の格を描き出しています。