『いだてん』が描くロス五輪、青春の美しさに心を打たれる

「初々しく、幼い」の魅力
堀井 憲一郎 プロフィール

日本泳法を紹介して、そのあと各国の選手がプールに飛び込んで歓待しあうシーンが感動的でもあった。1964年の東京五輪の閉会式を少しおもいだしてしまった。いかにも「青春」という描写だった。ストレートに若さを表現していて、なかなかいい。
 
1932年のロサンゼルスオリンピックはやはり日本人にとって忘れがたい大会だったようである。

1970年に出版された広瀬正の小説『マイナスゼロ』は昭和38年から昭和7年にタイムスリップする物語であるが、これにもロス五輪の描写がある。

主人公は自分でラジオを組み立て(広瀬正がそういうタイプの人だったらしい)この中継を聞いている。

「この放送は時差や技術などの関係で、生中継ではなく、いわゆる実感放送というやつだった。何時間か前に行われた競技の模様を、松内アナウンサーが、あたかも実況であるかのように語るのである」

この小説を私が読んだのは1970年代のことだったが、「実感放送」がいかなるものだったのか、2019年になって『いだてん』で見ることができた。出場選手をスタジオに呼び、また水の音も立てさせていて、なかなかご苦労なことである。

小説『マイナスゼロ』の主人公は曖昧な記憶をもとに五輪の賭博に金を出して、少し儲けている。水泳陣は一種目をのぞき金、あと馬術と三段跳びで金、というのは、三十年以上経った日本人にも記憶されていた成果だったようだ。昭和四十年代の小説でもその興奮が伝えられていた。

ドラマ『いだてん』での水泳陣での活躍は、とても瑞々しく、心に沁みてくる。

それは躍動的であり、未来を信じている人たちの姿を描いている。

「未来を信じる青春」を描いて31話はとても美しい回だったとおもう。

またロサンゼルスの日系人たちが日本選手の活躍を誇りにおもっているさまが(ドラマ後の短いドキュメンタリーふう映像も含め)ひしひしと伝わってきた。日系人たちの叫びは感動的であった。大河ドラマではあまり感じたことのない感動である。

 

『いだてん』の特殊性

あらためておもうのだが、『いだてん』はだから、ドラマを見慣れてる人に向けのドラマなのだ。

作り手たちがどうおもって制作しているのかはわからないが、見ているかぎりはそうである。

ロサンゼルスオリンピックの回を見ながら、強くそう感じた。

ドラマを見慣れていれば、いろんなメッセージを受け取り、さまざまに想像を膨らませ、豊かな体験へと変えることができる。ただ大河ドラマが担っていたのは「わかりやすく新鮮な歴史の絵解き」である。そのつもりで見ている人にとっては、あまり受け取れるメッセージがない。ドラマの出来が悪いわけではない。私は素晴らしいドラマだとおもう。ただ日曜8時NHKを見る視聴者と合ってないだけである。まあ合ってないのに敢えてやっているのが問題になっているのではあるが。