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私が「人生のサバイバル力」を沖縄の高校生に伝えたかった理由

米中対立最前線の島で、佐藤優が語る

なぜ久米島という「トポス」を選んだか?

日本は構造的危機に直面している。国内政治、外交、経済、科学技術など、すべての面で制度疲労が生じている。この状況を打開するには教育を改革することが焦眉の課題だ。

1960年1月18日生まれの私は、もうすぐ還暦を迎える。私が職業作家となったのは遅く、2005年のことだった。現在のペースで仕事をできるのは、あと5~10年くらいが限界と思う(この年限は持病である慢性腎臓病の進行によってだいぶ異なってくる)。

自分の持ち時間が限られているという認識が強まるにつれて、教育への関心が高まってくる。現在の中学生から、30歳くらいまでの若い人々に、われわれの世代が先輩たちから引き継いだ、そしてわれわれ自身の、学知と経験を継承しなくてはならないという使命感を私は持っている。

本書『人生のサバイバル力 17歳の特別教室』は、沖縄の久米島というトポスであえて行った。トポスとは、ギリシア語で「場」を意味する。アリストテレスにおいては、議論に関係した事柄や話題の場を意味する。古代ギリシア人にとってこの「場」は、抽象的な観念ではなく、具体的で空間的な場と結びついていた。

日本の教育について語る場合でも、東京、京都、北海道、沖縄ではトポスが異なる。また、沖縄でも、那覇、名護、久米島、石垣島では、トポスが異なる。実効性のある教育については、トポスに応じてすべてアプローチを変えなくてはならない。

久米島の特徴については、本の中で詳しく説明しているので、ここでは繰り返さない。『人生のサバイバル力』を是非手にとってほしい。本稿では、なぜ私が久米島というトポスを選んだかについて説明したい。それには、個人的事情と国際情勢の2要因がある。

妖怪キジムナーが住む島で

個人的要因は、私の母が久米島出身であることだ。私は埼玉県大宮市(現さいたま市北区)の日本住宅公団の団地で育った。埼玉県には海がない。しかし、私の記憶には青い海が強く焼き付いている。それは、幼児のときから繰り返し母から聞かされた話に基づく記憶だ。

その家は高台にあって、縁側から海がよく見える。太陽が水平線から顔を出すと黒い海が徐々に青くなっていく。海岸に珊瑚礁のリーフが続く。沖合では、ときどき鯨の家族が泳いでいて潮を吹く。家のそばには大きなガジュマル(榕樹)がある。

そこには妖怪キジムナーの家族が住んでいる。キジムナーは目には見えないが確実に存在すると母は強調していた。キジムナーが、身体の上に乗ると金縛りになり、身動きがまったくできなくなる。こうしてキジムナーを実感するという。

私が怯えて「キジムナーは、家にやってくるの」と尋ねると、「日本には来ない。沖縄にしかいない。ただし、那覇にはあまりいないけれど、久米島にはたくさんいる。どうもキジムナーは都会が好きではないようだ」と母から言われ、一安心した。