倹約な学生の暮らし

たいがいの大学生には恋人がいる。学生といえども自立している彼らカップルのことを、社会は立派な大人とみなす。そしてカップルがフランス社会の最小単位になるのである。カップルで住みはじめても、別々に奨学金をもらい、慎ましやかな学生生活を送るというのが、フランスの学生カップルのパターンである。したくてもアルバイト自体がほとんどないし、あったとしてもせいぜい、ベビーシッターくらいだろうか。

私が住んでいたサン・ミッシェル広場に面したアパートの最上階の屋根裏部屋に、大勢の学生がいた。ソルボンヌという旧称で親しまれているパリ大学の本校や、専門ごとに分かれた校舎の集中地区だったから、最上階の七階屋根裏部屋は、あたかも学寮のようだった。同じ建物でも、エレベーターのある入口からは、屋根裏部屋へいけない仕組みになっている。屋根裏部屋には大学生だけでなく、外国人労働者や見習いコックさんといった職業の若者も住んでいるが、ただでさえ故障だらけの旧式なエレベーターが、大勢の若者たちに占領されては、ほかの住人はたまらないからだ。

大学生たちは日にいくどとなく、延々と続く螺旋階段を上り下りする。古いアパートのどこもがそうなのだが、建物自体の構造が複雑に入り組んでいる。私の仕事部屋の壁がたまたま螺旋階段に近かったらしく、机に向かう私の耳に、長い階段をものともしない彼らの軽快な足音が、深夜まで聞こえていた。

エレベーターのある入り口からはいけない屋根裏に通じる階段。その音が吉村さんの部屋に夜ごと聴こえていた Photo by iStock

たまたますれちがった学生が、スーパーで買ったヨーグルトと、半分に切った棒パンのバゲットを持ってにっこりと私に微笑みかけたときのしぐさが、これを書いている今も思い出される。部屋に冷蔵庫がないから、生鮮食品の買い置きができない。バゲットに挟むハムも一枚だけ買う。その日に食べ切る量だけしか買わない彼らの、なんともほほえましい生活ぶりをのぞいては、母性本能をくすぐられたりもしたのだった。