対中貿易戦争の背景にある、アメリカの強烈な「歴史的危機感」とは

グリーンランドにまで手を伸ばす「敵」
野口 悠紀雄 プロフィール

グリーンランドにまで手を出した中国

アメリカが中国に対して危機感を持つのは、理由がないわけではない。

以下に見るように、さまざまな面で、中国が高度な技術に基づいて世界を制覇しようとしているからだ。

第1は、第5世代移動通信システム(5G)での中国の影響力増大だ。

光ファイバー網を国内外に広げていく。とくに、「一帯一路」に沿った地域に光ファイバー網を大規模展開していく。

そして、光ファイバーに接続できる通信機器を、ファーウェイ(華為技術)をはじめとする中国メーカー製だけに制限する。

こうして、中国メーカーの通信機器市場における支配力を強め、次世代のインターネットサービス(物流、遠隔医療、教育、VRなど)を、中国企業が支配する。

中国は、これらの市場からアメリカ企業を締め出せるだろう。

第2は、中国版の衛星測位システム「北斗」だ。

2018年にサービスを開始したのだが、18年に18基を発射し、19年6月末の衛星の稼働数が35基となって、GPSの31基を抜いた。これに対して、EUの衛星は22基、ロシア製は24基。インド製は6基、日本は4基にとどまる。

これによって、関連ビジネスを中国企業が独占することになる。 

測位衛星はミサイル誘導や軍隊の展開把握のために利用されるため、中国に主導権を奪われることへのアメリカの危機感は強い。

第3は、「一帯一路」の拡がりだ。

これは、ユーラシア大陸の国々を陸路と海路とで結ぶ巨大経済圏構想だ。

中・東欧16か国は、「16+1」と呼ばれる枠組みの下で、既に中国との「一帯一路」構想の覚書に調印している。中東欧諸国における中国の影響力の増大は、中国によるギリシャ・ピレウス港の管理権の獲得や、セルビアからハンガリーへの鉄道近代化事業などに現れている。

今年の3月に、イタリアは、G7参加国で初めてとなる「一帯一路」参加を決めた。

これらは、「中国マネー」を頼みにするものだ

また、中国は、アフリカへの影響力も強めている。

 

それどころか、北極圏でも影響力を拡大しつつある。

デンマークの自治領グリーンランドで、3つの新空港建設プロジェクトがあったのだが、デンマーク政府は負担に消極的だった。ところが、中国の国有建設企業である「中国交通建設」が受注。中国は、レアアース鉱山などへの投資で次第に島へ直接進出するようになった。投資額は島のGDPの1割を超した。

これに危機感をもったアメリカが、「グリーンランドをデンマークから買収する」というニュースが報道されたほどだ。

1980年代には、アメリカ経済は不調だった。だから、危機感を抱いても不思議はない。しかし、いまのアメリカ経済は、空前ともいえる成長を享受している。それにもかかわらず危機感を抱くのは、中国の躍進がきわめて重大なものと捉えられていることを示している。

日本国内にいると、こうした大きな変化が生じていることをなかなか実感できない。そのため、貿易戦争を「馬鹿げたこと」、「米中間の冷静な対話で、早く収束すべきもの」と考えがちだ。

しかし、これは、歴史が大きな転換点に差し掛かっていることの現われなのかもしれない。