対中貿易戦争の背景にある、アメリカの強烈な「歴史的危機感」とは

グリーンランドにまで手を伸ばす「敵」
野口 悠紀雄 プロフィール

アメリカの「新しい危機感」

そもそも、今回の事態には、常識的に考えると、理解しにくい面がある。

もっとも理解しにくいのは、1人の大統領の決定だけで、全世界の市場がかくも簡単に大混乱に陥ってしまうということだ。

もともと、アメリカの政治システムでは分権化が徹底しており、大統領1人に権限が集中しないような仕組みになっているはずなのだ。

税制の決定についても議会が権限を持っており、大統領が勝手に動かすことはできない。

では、関税率の変更を、大統領一人の意向でかくも容易にできるのは、なぜなのか?

それは、「通商法301条」があるからだ。これは貿易相手の不公正取引に対抗する制裁手順を定めたものである。不公正かどうかは、米通商代表部(USTR)が調査・判断し、制裁措置の発動は大統領が行う。議会の承認は必要ない。今回の中国産品に対する追加関税は、この規定を根拠にしている(なお、2018年3月に行われた鉄鋼・アルミニウムへの追加関税賦課は、「通商拡大法」第232条を法的根拠としている)。

どうしてこのような「異常」ともいえる規定が、アメリカに存在するのだろうか?

 

この規定は、1974年に制定された。

そして、1980年代の日米貿易摩擦の際に用いられた。1987年、アメリカは、301条に基づいて、コンピュータ、カラーテレビ、電動工具について、100%の報復関税をかけたのである。1988年には、「スーパー301条」が新設され、不公正な貿易障壁や慣行があるとアメリカが認定した場合、一方的に制裁措置をとることができる とされた。

1980年代に301条が用いられたのは、日本製品のアメリカ市場への流入で、アメリカが深刻な危機感を抱いたからだ。「このままでは、アメリカ市場が日本製品によって席巻されてしまう」と考えられたのだ。

その後、1995年に公平平な自由貿易の発展を目的として世界貿易機関(WTO)が発足し、それ以降は、通商法301条の発動は控えられるようになった。 

しかし、それがいま復活したのだ。 

この異常な規定が、いまアメリカで復活したのは、なぜだろうか?

この背後には、アメリカの新しい危機感があるのではないだろうか?

では、その危機感とは何だろうか?