対中貿易戦争の背景にある、アメリカの強烈な「歴史的危機感」とは

グリーンランドにまで手を伸ばす「敵」
野口 悠紀雄 プロフィール

トランプの真意はどこにあるのか?

このように、どこの国の政策当局も対応に苦慮している。これを見ると、トランプ大統領は、全世界に害悪だけをまき散らしているように見える。

それだけではない。トランプ自身も苦しい立場に追い込まれる可能性がある。

トランプは、「アメリカの企業には中国からの生産移管を命じる」とツイートした。

このツイートがなくても、中国からの生産移転が生じるだろう。これは、中国経済にとって大きな打撃だ。では、それで「アメリカが勝った」ということになるのだろうか?

そうではない。なぜなら、トランプ大統領が望むように工場がアメリカに戻ってくるずはないからだ。現在中国に生産拠点を置く世界の企業は、中国から脱出して東南アジアに移るだろう。

しかし、これは、経済的に見て最適なサプライチェーンとは言えないものなので、企業にかなりのコスト負担を強いることになる。

 

こうして、対中国貿易戦争がアメリカ経済に与える悪影響が、今後ますます明確になる。「景気が悪くなるのはFRBのせいだ」と言っても、説得力はない。

そうなると、大統領選挙に向けて、トランプは難しい立場に置かれる。

しかし、現在起きていることに対して、以上とはまったく違う見地からの理解も可能だ。

それは、「中国のような国が未来世界の覇権を握るのは許せないので、コストを覚悟でとことんやる」という信念をアメリカが持っている」という解釈である。

そうだとすれば、貿易戦争は、トランプ大統領の気まぐれによって引き起こされているものではなく、歴史の必然だということになる。

以下では、そうした理解にもとづいて貿易戦争を眺めてみることにしよう。