「子どもを尊重する」ということ

家庭での子育てでも、まったく同じことがいえる。
尊重するということは、子どもを信じて選択権を与える、つまり自由を与えることになる。その自由が彼ら、彼女らに自信や成長をもたらすことを、私たちはもっと学ばなくてはいけない。

そのことを、八村以外でも、世界で戦う多くのアスリートたちが教えてくれている。
ゴルフの全英女子オープンを制した渋野日向子は、ラウンド中やインタビューで「やべえ」を連発し、決して自分を飾らない。飾らないけれど、パットの調子が悪くても、ギャラリーのなかをぬって歩くときに嫌な顔ひとつ見せない。大人のアスリートなのだ。

これを高いプロ意識があるといってしまえばそれまでだが、子ども時代から培ったものは決して小さくない。彼女も八村同様、冷静で穏やかな母親に育てられている。ダルビッシュ有のご両親のインタビューもしたことがあるが、まさしく同じだった。

「子どもであれ、トップアスリートであれ、挫折を迎えたときにどう乗り越えていくかは、自分をどれだけ信じられるかにかかっていると思います。それは小さいときからいかに周りの大人に自尊感情を育ててもらっているか。そこが大きい。データによるエビデンスはありませんが、コンプライアンスの活動を通じて、経験的にそうとらえています」と竹村さんは言葉に力を込める。

いいときよりも悪いとき、勝つことよりも負けることの多いアスリートは、オープンマインドを持ててこそ成長できる。オープンマインドは成長する力なのだ。

ベースには幼少期からの積み重ねがある。たとえるなら、子どもの自己肯定感はパイ生地のようなものだろう。バターたっぷりの薄い皮が積み重なって美味しいパイになる。

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「今日は妹の誕生日なんです」

八村に話を戻そう。

彼の突き抜けたパーソナリティーを目の当たりにしたのが、W杯2次予選で日本代表に合流しイランを下した試合の後のこと。
インタビューが一通り終わると、八村はうれしくてたまらないといった表情でこう切り出した。

今日は妹の誕生日なんです。みなさんハッピーバースデーを歌ってください。名前はまりちゃんです」と観客にお願いしたのだ。
体育館に響くハッピーバースデーの大合唱。オーロラビジョンにははにかむ八村の妹が映る。ほかの選手やスタッフも歌い、バスケットファミリーの絆さえ感じさせた。

日本代表チームの会見でもサービス満点 Photo by Getty Images

格上のドイツに86対83で勝った後は「この後に女子の試合もあるので、帰らないで」とスタンドに向かって頭を下げた。
協会もしくは運営サイドからのリクエストはあったのかもしれないが、心からの呼びかけであることは見てとれた。男子が五輪に出られない間、世界舞台で日本の名前をアピールし続けた女子日本代表へのリスペクトは当然あるはずだ。

W杯では予選リーグで同17位のトルコ、同24位のチェコと対戦する。過去欧州勢に一度も勝ったことのない日本だが、ドイツに勝ったことで世界舞台でのジャイキリに期待は膨らむばかりだ。

わずか3年前までアジア10位と低迷し、世界に挑む権利さえ与えられなかった日本の男子バスケ。変貌させた八村から目が離せない。