子どもたちがぶつかり合う前に
口を出す日本の指導

さらに、米国大学バスケットの名門ゴンザガ大学に入ったばかりのころを振り返った八村の話が興味深い。
バスケットは体がぶつかり合う激しいスポーツだけに、練習中に仲間同士で激しく言い争ったり、それこそ殴り合いのようなけんかが起こることもあった。

日本の場合、どんなカテゴリーであれ、まずそうはならない。選手同士が言い合いになる前に、コーチが発言するからだ。近年少しずつ変化してきたが、中学、高校の試合では、ベンチで怒鳴るコーチと、黙って腕組をして選手を見守る二つのタイプに分かれる。ただ、前者のほうが圧倒的に多い。選手同士のインターラクティブ(相互的)なコミュニケーションよりも、コーチから選手への指示が優先される環境のほうがまだ一般的なのだ。

ぶつかり合いもある練習や試合で、当然諍いは起こる。ただ、その諍いを経ての学びがあることを指導者も大人たちも忘れてはならない Photo by Getty Images

したがって、激しく意見し合うさまに面食らった八村だが、練習だろうが、試合だろうが、本音をぶつけ合いながらチームとしてまとまっていくことに気付いた。これと同じことを米国の大学でプレーした渡邊雄太も話していたし、欧州でプレーする選手が多いサッカー界でもよく耳にする。
つまりは、日本の選手は海外でオープンマインドを学ぶようだ。

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前出の竹村さんは「日本では、指導者が、指導者と選手との関係性を見直すことが必要でしょう。もっと子どもの自己肯定感を育てることに注目したほうがいい。自分はこれでいいのだと自信を持つ力を育ててほしい」と指摘する。

2014年から全日本柔道連盟コンプライアンス委員、今年度から全日本車いすバスケットボール連盟コンプライアンス委員を務める竹村さんによると、いまでもスポーツ指導の現場では、子どもを正座させて怒鳴ったり、泣くまでしかりつけるといった指導が、少なからず行われているという。

「そのような指導では、子どもは自分が尊重されているという実感を持てないので、コーチに受け入れられるようにしようということにしか頭が働かない。コーチの顔色ばかり窺う選手になってしまいます」

そんな状態では、自分で考えて行動できる自立したアスリートにはなれない。厳しく怒鳴るような指導は変えましょうと話すと、「そんなことをしたら、子どもを甘やかすことになる」「子どもが頑張らなくなるからうまくならない」「子どもがつけあがる」「子どもからなめられる」といった“不安”を口にするコーチが多い。

これはとりもなおさず、目の前の教え子を信じられないことから案じる不安であり、自らの指導力に自信を持てないことからくるものではないだろうか。