乱射、放火…世界の「凶悪事件」の犯人は、なぜ「男性」ばかりなのか

そこには生物学的な理由がある

「一夫一妻」はなぜ普及したか

哺乳類だけでなく鳥類でも、「オスが競争し、メスが選択する」という性戦略のちがいは広範に見られる。これはオスにとって精子をつくるコストがきわめて低く、メスにとって子どもを産み育てるコストがきわめて高いからだ。ここから、オスの最適戦略は出会ったメスと片っ端からセックスする「乱交」になり、メスの最適戦略はもっとも多くの資源(食料や安全)を提供してくれるオスの「選り好み」になる。これが進化心理学の基本で、現在までに膨大な証拠(エビデンス)が積み上げられている。

とりわけヒトの場合は、女性は受胎してから9カ月の妊娠期間があり、そのうえ出産後も数年の授乳・子育てが必要になるのだから、そのコストはすべての哺乳類のなかできわだって高い。これはつまり、「選り好み」がきびしくなるということであり、男同士の競争がはげしくなるということだ。

 

猿人や原人の時代からヒトのオスはヒエラルキーの頂点を目指して暴力的に争ってきた。だが現実には、文明社会から隔絶して狩猟採集生活をつづける伝統的社会でも部族内の殺し合いが頻繁に起きているわけではない。なぜなら、共同体内の暴力を抑制する大きな圧力がはたらいているから。それは「部族間の殺し合い」だ。

ヒトと99%の遺伝子を共有するチンパンジーは、弱い群れに遭遇するとオスと乳児を皆殺しにしてその肉を食べ、メスを自分たちの群れに迎え入れる(ハヌマンラングールなど他のサルでも同様の行動が観察されている)。子殺しが乳児に限定されているのは、授乳中のメスは妊娠できないからだ(そのため襲撃者は授乳期を過ぎた子ザルには関心を示さない)。この残酷な習性は、近親相姦を避けて子どもの数(「利己的な遺伝子」の複製)を最大化する「合理的」な戦略だ。

〔PHOTO〕iStock

敵対する他部族の脅威がきわめて大きい場合、もっとも戦闘力の高い「若い男」が部族内で殺し合うのはきわめて不利だ。ようやくヒエラルキーの頂点に立ったとしても、戦士のいない弱体化した部族は襲撃に対して無力だ。最終的な運命が「皆殺し」なら、部族内で男たちが地位をめぐって暴力的に争ってもなんの意味もない。

このようにして、部族内で女を(比較的)平等に「分配」するという慣習が定着したのだろう。「戦争が平等をつくった」のだ。

古今東西、ほとんどの社会は「ゆるやかな一夫多妻」だったが、貧しさによって1人の女しか養えない場合は一夫一妻になる。近代以降に急速に広まった厳格な一夫一妻制はこの極端なかたちで、その背景には産業革命後の大量殺戮兵器の登場で、第一次・第二次世界大戦のような国家間の暴力の脅威がきわめて大きくなったことがあるだろう。近代国家の総力戦に勝ち残るには、一夫一妻制によってすべての男に性愛がいきわたるようにして、社会の秩序を保つ必要があったのだ。

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