「貧困の再発見」から10年、日本社会はどう変わったのか

複雑化する現実、今語るべき理想
大西 連, 望月 優大 プロフィール

「誰」が語り手になるべきか

大西:貧困になりやすい状況って、絶対にあるんです。ある家に生まれたら貧困にならない一方で、どれだけ頑張っても貧困から抜け出せないような家に生まれる人がいる。全員が、同じスタートラインに立てるようにする必要があります。そのために、どうやってバランスの取れた社会を作るかという議論が今、足りていない。それを僕は現場から、望月さんは提言や発信といった部分で、どう示していけるのかが課題だと思いますね。

望月:発信に関していうと、最近は「現実」をそのまま伝えるだけでは足りない、もう少し「規範」や「理想」の話をしなければいけないと思っています。「現実って複雑だよね」と言って終わりにするのではなくて、「これからどこを目指したいのか」をポジティブに語ることも大事です。

 

大西:今は、理念が語られないまま、仕組みや制度の話が先にきていますね。現場としては仕組みや制度ができること自体は必要なことだからそれを歓迎しつつも、場当たり的に感じますし、違和感はあります。

望月:そんな中で最近では自分の社会的な価値、流行り言葉ですが「生産性」を社会的に証明した人だけが、自由の切符を得られるかのように言われている。みんながそういう考え方をして、自分を大きく見たり卑下したりするようにはしたくないなと。

大西:そう思えたほうがいいんだけど、そういうことを、どうやったら共有できるんだろう? 『ニッポン複雑紀行』もそうだし、僕もいろいろなところで書いて、現場の話を発信しているけど、どうしたら実際の変化につなげられるかっていうのは、いつも考えています。

つらいことだけど、人って、見たいものしか見なくなっているじゃないですか。僕の分野は、関心のある人しか見てくれない。見てもらえること自体はありがたいんだけど、反面、言葉が届く人とだけ議論していても大きな変化を起こせない。リーマン・ショックみたいな社会全体にとって大きな出来事があれば、社会を取り巻く環境は動いていくのかもしれないけれど。

僕は、現場以外の視点で社会に訴えていくこと、望月さんが担っているような役割が社会を動かす鍵になるんじゃないかと思っています。個人的には望月さんに期待しています(笑)

望月:いやそれはないです(笑)。当たり前ですが、自分にできることとできないことがあると思っています。例えば、今の自分の生活から貧しさを語るのはやっぱり難しい。過去の経験から考えたり話すことはできます。そういう時期もあったので。あるいは、人から聞いたことからなら考えられる。外国人としての経験についても同じです。

今、世界的にリベラルや既成の左派のエリーティズムが忌避されていて、要は「お前なんかに言われたくない」ということにもなる。それはわかる。その中で自分は社会のことをどう考えて発信していくか。同時に、これまで様々なNPOの情報発信の支援をしてきたのも、現場からしか言えないこと、出せない情報があると思ってきたからです。