潔く美しい母の「死に方」が、腎臓病の娘に「生き方」を教えてくれた

自分の人生を歩む、ということ
徳 瑠里香 プロフィール

やっと手に入れた産む選択肢

はるかさんが夫婦間移植を選択する理由のひとつになった妊娠・出産は、移植から1年をめどに、腎機能を検査し、医師からGOサインが出れば、可能になる。

そこから、妊娠ができれば、現在服用している免疫抑制剤を母子に害のないものに変更し、効き目を確認しながら、妊娠を継続していくことになる。

子どもを授かれる可能性に手を引かれ、夫婦間移植をしたはるかさんだけれど、移植をした後、少し心持ちに変化があったという。

「臓器移植というかたちで夫から大きな愛をもらったから、心が満たされて、ありのままの自分、今を愛せるようになった。だから、子どもを授かることができても、できなくても、どちらでもいいかも。夫とふたりの生活はこんなにも楽しく、腎臓を分け合った私たち夫婦には今、ふたつの目標がある。一緒に生きて、おじいちゃんとおばあちゃんになること、そして温泉旅行に行ける体力を維持すること。どんなに可能性があったとしても、それができなくなる選択はするべきではないのかなって思っている」

 

妊娠していいのか、いけないのか。産めるのか、産めないのか。

はるかさんは、たくまさんとふたりで過ごす今を愛おしみ、移植手術から1年後の自分の身体の状態と医師のジャッジに身を委ねた。

そして1年後、腎生検を受けた結果、はるかさんの身体は、妊娠・出産を望めるまで回復していた。「妊娠を希望されますか?」医師の言葉に、はるかさんは静かに、はっきり「はい」と頷いた。

「術後1年間、子どもがいる暮らしも夫婦ふたりの暮らしも、どちらもたくさん思い描いていて、どんな結果も受け入れる覚悟はできていたんだと思う。不思議と心は静かで。迷いなく、妊娠・出産に向かう選択肢を選んだ」

死産を経験した29歳の頃から10年、それまで失い、諦めてきた「産む」選択肢をようやく手に入れたはるかさん。高齢出産となる39歳からの妊娠・出産には、リスクも伴うかもしれない。

「それでも私は、子どもを産んで、親になりたい」

はるかさんのその言葉は、一切の迷いや不安の色はなく、ただただ希望に満ちていた。

スタートラインに立ったばかりのはるかさんがこの先、妊娠・出産を迎えられるかどうかは、まだ誰にもわからない。子どもを授かることができても、できなくても、どんな運命になろうと、はるかさんはこれからもずっと変わらず、たくまさんとともに"自分の人生"を歩み続けるのだろう。

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