夫はなぜ妻への「腎臓提供」を決めたのか、その恐怖と本心

38歳で臓器移植をした夫婦の物語
徳 瑠里香 プロフィール

たくまさんの日記にははるかさんへの不満だけではなく、臓器移植に対するドナーとしての自覚と責任感も表れていた。

――なるべく健康な腎臓をはるかさんにあげたい。お酒を断とう。
――風邪を引いたら移植手術が延期になる。毎日マスクしよう。

 

たくまさんは、腎臓がふたつある"完全体"で、フルマラソンで4時間を切る記録(サブ4)を出すことを目標に、移植2週間前の大会に申し込んでいた。そのために1ヵ月あたり170kmほど走り込んでトレーニングを重ねた。そこに集中することで、臓器移植への恐怖と向き合わずに済んだ。大会では無事、自己ベストであるサブ4を達成。そこからの2週間、日記には、移植に対する恐怖が綴られていた。

「日記を盗み見て、夫がちゃんと私への不満、臓器移植への恐怖や不安を抱いていることを知って、この人は本当に私に臓器をあげる覚悟を決めているんだということがわかった。ようやく、夫のその真摯な気持ちを受け止めてもいいのかもしれないと思えたんだよね」

それでもはるかさんは、手術当日にたくまさんが現れなかったとしても、それでいいと思っていた。怖くなったら、逃げ出してもいい。それくらい、たくまさんを追い詰めたくなかったし、移植をする選択は、たくまさんに委ねたかった。

(つづく)