美術館は平和な空間

好きなアーティストの名前で見ることも楽しいことだが、何も知識を持たずに一度展示会場をぐるっと回って鑑賞する。自分がどのように感じるか、その作品と語り合う。そうすることで広がりが出てくると原田さんは言う。

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――子どもって自分の見たままに感じているでしょう。響かないものは響かないでしょうけれど、心で響くと思うんですね。例えば、生まれたばかりの赤ちゃんを美術館に連れてくるご両親を欧米の美術館で見かけることがあります。赤ちゃんはまだわからないかもしれないけれど、「見せて」いる。そのご両親は素晴らしいなと思うんです。

なぜかというと、ミュージアムにいらっしゃる人はみんな幸せな気分で来ているから。もちろん、何かに悩んでいる人もいるかもしれないけれど、アートに触れることで癒されたいと思って来ている。つまりミュージアム自体が平和な空間なんです。その平和な空間の中に、まったく知識を持たない子どもを連れてくるというのは、何か幸せなコンタクトをしている人たちの中に、アートってなんて素敵なんだろうという気持ちの良さにコンタクトするんですね。

アートに触れるために人々が訪れている場所。それがミュージアム。これは今年2月にNYで発表されたリヒターの映像作品 「ライヒ リヒター ベルト」展示風景 The Shed(2019、ニューヨーク)   

ビジネスパーソンでも同じですよね。いや、むしろもっと影響は大きいかもしれない。最近は「アートを語れるビジネスパーソンになろう」と言われています。それは大賛成なんです。数字とか業績に置き換えられないものに触れる、そういう感性というのは非常に重要なんじゃないかと思います。

アートに触れることは「ビジネスを成功させる」という直接的な何かにはならないかもしれないけれど、その人が豊かに生きているとか、豊かに物事を考えることができることが、大いに業績やビジネスにも反映されますよね。すべてのことをご存知の大人、全ての知識をもった大人にこそミュージアムがまた違うエネルギーを与えてくれると思うんです。

出勤後、ナイトミュージアムなどにふらっと寄って帰るなんて素敵ですよね。そういうことができる人は、自然に素敵な人になっているはずです。そんな方々のために、「CONTACT」展も朝7時から開場して、出勤前に立ち寄れるようにしたんですよ。

インターネットは情報を得られるということはすごくいい部分もあるだけれど、現実の体験ではない。展覧会は「空間を体験すること」も含んでのもの。だから「実際に体験していただく」ということが大事なんです。特に今回の「CONTACT」展は、会場に来ていただかないとメッセージに気づくことなく終わってしまう。8日間だけですから。こんな凝縮された8日間、一生のうちに二度とないと思っています

「アート」は最初から「知識」を必要とはしない。まずは心で感じるもの。感じるからこそ、広がりを知りたくなり、語れるようになる。そしていつの間にか自分の中に蓄積される。美意識もごく自然に鍛えられる。だからこそ、清水寺で感じる機会が広がっているこの一瞬を逃してはならない――そんなアーティストたちの声が、聞こえてきそうだ。


「CONTACT つなぐ・むすぶ日本と世界のアート」展 https://contact2019.com/
清水寺 成就院 庭園
リミットは8日間。会場は世界遺産・清水寺――ICOM京都大会2019を記念し開催される特別展。美術・文学・映画・漫画の各分野で、世界と日本のアーティスト、クリエイターが互いに影響を与えあい、響きあって来た軌跡を体感することができる。
2019年9月1日(日)~8日(日)7:00~18:00(最終入場は17時)
大人1800円 子ども(小学生以下)無料
*モーニングチケット(7:00~9:00入場)1600円
20 CONTACTS 消えない星々との短い接触
黒澤明のところに松坂牛を手土産に行き、マティスのところに嵯峨面を手土産に行く。手塚治虫やゴッホところには……「CONTACT」展のために、20人のアーティストと筆者自身との「接触」を描いた短編集。「CONTACT」展とのリンクを楽しむことができる。展覧会ではその一部をタブロイド版として配布し、また別の「つながり」を生み出すのだとか。