世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」』という山口周さんの本がベストセラーになったのは2017年のこと。では「美意識を鍛える」とはどういうことなのだろうか。

作家の原田マハさんは、2012年に山本周五郎賞を受賞した『楽園のカンヴァス』ではルソー、先日直木賞にノミネートされた『美しき愚かものたちのタブロー』では国立西洋美術館など、「アート」をモチーフとした多くの史実をもとに、アーティストやアートを愛した人々の生をリアルに伝える作品も多く紡いできた。

そしてこの夏、森美術館設立に関わったキュレーターでもある原田さんが2006年に小説家になって以来初めて手がける美術展が話題になっている。それが清水寺にて開催される「CONTACT つなぐ・むすぶ日本と世界のアート」展だ。原田さん自らがセレクトし、通常非公開の成就院・経堂での作品展示も実現する、奇跡のような展覧会が、わずか9月1日~8日までの8日間限定で開催されるのだ。

清水寺に展示されるのは、アンリ・マティス、猪熊弦一郎、アルベルト・ジャコメッティ、河井寛次郎など西洋美術作品や現代アートを含む30点弱。そのすべてが、タイトルそのままに「日本と世界のアート」のつながりを意味しているという。

アートとはなにか。日本と世界とはどのようにアートで繋がっているのか。「CONTACT」展について原田マハさんに伺っていくと、「観る目を養う」ことがどういうことなのかがわかってくる。

撮影/村田克己
原田マハ 1962 年東京都生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。伊藤忠商事株式会社、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2002年フリーのキュレーター、カルチャーライターとなる。2005年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、2006年作家デビュー。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞を受賞。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞を受賞。ほかの著作に『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『あなたは、誰かの大切な人』『たゆたえども沈まず』『常設展示室』『ロマンシエ』など、アートを題材にした小説等を多数発表。画家の足跡を辿った『ゴッホのあしあと』や、アートと美食に巡り会う旅を綴った『フーテンのマハ』など、新書やエッセイも執筆。

アートは「つながって」いる

例えば、原田さんは『たゆたえども沈まず』というゴッホを主人公とした作品で、ゴッホをはじめとするアーティストたちが熱狂した日本の浮世絵と、ゴッホを日本につないだ林忠正という実在する人物に焦点を当て、ゴッホの日本からの影響も受けていた人生を描き出した。

アーティストは生身の人間であり、やはり別のアーティストや文化から影響を受け、そしてなにかを生み出している。すべてのアート作品が、別のアーティストや作品につながっているのだ。日本のアートと世界のアートもしかり。今回の「CONTACT」展は、まさにそういう「つながり」を感じさせる展示にしようとしたのだという。

――「誰が世界のモダンアートの目覚めを日本に植え付けて行ったんだろう」とずっとずっと思っていたんです。私たち日本人はモダンアートに対する異様な情熱があって、ゴッホやピカソやマティスが好きな人が多い。モダンアートに親和感みたいなものを持っているわけですよね。その起源を探ってみることから、この展覧会の作品選びは始まりました。

私は『リーチ先生』(集英社文庫)という小説を出しています。これは(陶芸家の)バーナード・リーチを描いたものですが、リーチから濱田庄司、そして河井寛次郎につながります。同じようにして、私はモダンアートの原点として白樺派にいきつきました。そこからあの人もこの人もと、箱のふたを次々に開けていくようにつながっていきました。

アーティストの彼らは「つながって」います。例えば今回の展示にはありませんが、ピカソはベラスケスに親愛の情をもって、「ラス・メニーナス」という有名な作品から展開して、まったく新しいピカソ本人の作品にしてしまいました。一人のアーティストや一つの作品に、他の作品に強いコンタクトをした形跡が見えるんですよ。

画家の猪熊源一郎がマティスのところに絵を学びに行った際、猪熊さんはマティスから「君は絵がうますぎる」と言われたのを痛烈な批判に感じたそうです。それもまたすごいところで、マティスをなぞるような作品も作るのですが、彼は結局それを乗り越えていくんですね。そのような「つながり」が見えるような展示にするつもりです。