「乙武義足プロジェクト」が進行している。膝がない、腕がない、歩いた経験がない――乙武洋匡氏はそんな身体の「三重苦」と闘いながら、歩行練習に励んでいる。

義足練習見学会でのアクシデントを乗り越え、自己記録を超える10.3メートルの歩行を達成した乙武氏。その感激に浸るまもなく、義足プロジェクトは新たなフェーズを迎えた。義手の活用だ。何かを成し遂げるとまた新しいハードルが目の前に現れてくる現状に、乙武氏はどう向きあったのか。

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義手活用を視野にいれた
上半身のストレッチ

4月10日。

「おはようございます」

午前10時半、いつも通り理学療法士の内田氏が訪ねてきた。窓の外では、例年よりもずいぶん遅くまで生きながらえた桜の花が、ようやくその役目を終えようとしている。この部屋に平行棒が設置されて、まもなく一年を迎えようとしていた。

「じゃあ、今日もストレッチから始めましょう」

3月からメニューに加えられた上半身のストレッチが入念に行われた。内田氏は私の背後から両手をまわし、私の胸とみぞおちのあたりを軽く指先で押し込む。彼が8の字を描くように上半身を揺らすと、私の上半身もぐねぐねと左右に揺れた。肩甲骨の「回旋」と「側屈」の可動域を広げることは、来月にも導入される「義手」を活用した歩行に向けての準備段階と考えられていた。

「だいじょうぶです。ストレッチを続ければ乙武さんの上半身は柔らかくなりますよ」

私の肩に手をあてた内田氏は、そう言って励ましてくれた。

撮影/森清

右足が突っかかる……

ストレッチが終わると北村に義足を装着してもらい、平行棒の間に立つ。3往復ほど歩いたあとで平行棒の外に出るのはこれまで通りだが、4月になっても右足が突っかかる悪癖はなかなか改善されなかった。

「あっ、ダメだ」

バランスを崩し、情けない声をあげる。左足はスムーズに前に出るのだが、どうしても右足が出ないのだ。ソファを利用しての筋力トレーニングも続けていたが、なかなかその効果が表れてこないのがもどかしかった。

原因はわかっていた。体重がうまく左足に乗っていないのだ。左足に体重をかけ、左足1本で立っていられる時間を少しでも長く確保することができれば、右足ももう少しスムーズに出てくるはずだった。ただ、脱臼している左の股関節を無意識のうちにかばっているせいか、思いきって左足に体重をかけることができないまま、力任せに右足を振り上げてしまっていた。これでは「歩く」というよりも「引きずっている」という表現のほうがふさわしい。