経済格差が、子どもの「脳の発達」に影響を与えるという厳しい現実

是正のためには何ができるか
森口 佑介 プロフィール

「実行機能」というスキル

ところが最近になって、認知的スキルでも非認知スキルでもない、あるスキルが世界中で注目を集めるようになった。それが「実行機能」というスキルである。非認知スキルの一つとされることもあったが、最近は独立したものとして扱われている。

実行機能。字面だけ見てもどのような能力かはわかりづらいが、簡単に言えば、目標に向かって自分をコントロールする力のことを指す。ダイエットという目標のために食べたいものをがまんする力や、夕食を作るという目標のためにある具材を切ったり別の具材を煮たりと柔軟に頭を切り替える力である。大事なのは、「目標を達成する」ために必要なスキルだということだ。

たとえば、実行機能を測る代表的なテストは以下のようなものだ。カードに色と形の2つの属性があり、子どもはあるときは一方のルール(たとえば色)、別のときは異なるルール(たとえば形)でカードを分類しなければならない。このテストは、物事を実行する際のルールを柔軟に切り替える能力を測定する。

このテストの結果、3歳の子どもはルールを柔軟に切り替えることができないが、5〜6歳頃からルールを切り替えることができるようになる。つまり実行機能は、3歳から6歳頃にかけて大きく成長するのだ。

近年、子どもの実行機能が注目を集めているのは、子どものときの実行機能が、後の学力や友人関係、問題行動、および大人になったときの収入、社会的地位、健康、犯罪歴などと関連するためである。この点を世間に知らしめた「マシュマロテスト」の研究成果は現在では疑問視されているものの、その後ニュージーランドやイギリスなどの研究で信頼できる成果が出されている。実行機能の影響力はIQ以上だという研究結果もあるし、非認知スキルと比べて確実に測定できるという特徴もある。

実行機能は、子どもの未来の可能性を広げる能力といえるだろう。

 

経済格差が直撃する

このように人生にとって極めて重要な意味を持つ実行機能だが、良くも悪くも、子どもが育つ環境によって、その発達に影響が生じやすい。すなわち、家庭の経済格差が直撃するのがこのスキルなのだ。

あるアメリカの研究では、家庭の経済状態が子どものどのような側面での発達に影響を及ぼすかを調べた。その時に調べられたのが、子どもの視覚認知、空間認知、記憶力、言語能力、そしてくだんの実行機能である。

この研究の結果、視覚認知、空間認知、記憶力などの認知的スキルは、経済格差の影響をあまり受けなかった。一方で経済格差の影響を強く受けたのが、実行機能(と言語能力)であった。