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経済格差が、子どもの「脳の発達」に影響を与えるという厳しい現実

是正のためには何ができるか

子どもたちが発達させる、様々な「スキル」

この十数年、経済格差の拡大が日本を覆う巨大な問題として注目されることが増えた。経済格差の問題点はいろいろ指摘できるだろうが、とりわけ子どもにとっての影響が大きい。たまたま生まれ育った環境が不利であると、子どもたちの発達は著しくネガティブな影響を受けてしまうからだ。その結果、彼ら・彼女らの未来が閉ざされることもある。

筆者は子どもの心の発達(発達心理学)の専門家として、子どものときに発達させる様々なスキルが、彼ら・彼女らの未来にどのようにつながるかに関心を持ってきた。

ここではそうした研究のなかから、筆者らが今年発表した研究の成果を紹介しよう。そこでの結論は、経済格差が子どもの「脳の発達」に影響を及ぼすというものである。以下では、なぜ経済格差が脳にまで影響を及ぼすのか、脳の発達への影響はその後の人生にどんなインパクトを持つのか、それを改善する方法はあるのか、といった点について考えてみたい。

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さて、子どもの心の発達と聞いて、どのような学者が思いつくだろうか。スイスの心理学者、ジャン・ピアジェを思い出した人は多いかもしれない。

ピアジェおよびその後継者たちは、主に子どもの知的発達を調べてきた。子どもがいかにして知識を獲得するか、どのくらい記憶できるのか、いかにして推論するかといった問題である(なお、ピアジェの考えは現在多くの部分で誤りであることが明らかになっている)。これらの能力は、現代風に表現すれば「認知的スキル」と呼べるだろう。

 

一方、近年、教育経済学や教育社会学などで注目を集めるのが、認知的スキルと異なる「非認知スキル」だ。

非認知スキルは、経済学者ジェームズ・ヘックマンら一連の研究で脚光を浴びた。彼らの研究は、低所得家庭で育った子どもが幼児教育を受けることによって、幼児教育を受けなった子どもよりも、その後の年収や持ち家等の経済的な面で優れた結果を出すことを示した。この際、幼児教育は知能(IQ)などの認知的スキルにはあまり影響を与えなかったが、忍耐力や学業への真摯さなどの側面に影響を与えたと考えられ、これらが「非認知スキル」と呼ばれるようになった。

非認知という言葉があまりに漠然としているため、筆者も含めて心理学者は「社会情緒的スキル」という言葉のほうを好む。要は、自分や他人とうまく折り合いをつけるためのスキルだ。