数学者を感動させた大学生の「鮮やかすぎる証明」はこうして生まれた

当たり前の事実を納得するために
瀬山 士郎 プロフィール

直線だけではない補助のかたち

ところで、補助線というより、むしろ補助図形と言った方がいいような証明の方針もたくさんある。初等幾何学の問題の中にもいくつもあるが、ここでは私自身の経験も踏まえて、魅力的な補助図形というか、補助手段を使った証明を紹介しよう。

私が中学生の時に読んだ『現代の娯楽数学』(マーチン・ガードナー著、金沢養訳、白揚社)という本の中に、「倍数チェス盤」というタイトルのパズルが載っていた。問題はこうである。

8×8の大きさのチェス盤の対角線の隅にあるマス目2つを切り落とす。残った62マスの図形を2×1の大きさのカード(ドミノ札)31枚で覆いつくすことができるか(図4)。ただし、ドミノ札を重ねて置いてはいけない。

少し試してみると分かるが、覆いつくすことはできそうにない。では、不可能なことをどうやって証明するか。いろいろやってみたがダメだった、では数学の証明にならない。

じつはこの問題は、元の(隅を切り落とす前の)盤がチェス盤だということが大きなヒントになる。ご存知のように、チェス盤は白黒の市松模様に塗られている(図5)。8×8の盤では、対角線の隅のマスは同じ色になることに注意しよう。つまり、切り落とす2マスは必ず同じ色になるのだ(図5では、切り落とされた2マスはどちらも黒)。

ところで、ドミノ札は重ねて置けないという条件があるので、それぞれマス目に合わせて縦か横に置くのは明らかだ。とすると、盤上にどう置いても、1枚のドミノ札は白と黒のマスを1つずつ覆うことになる。したがって、盤の白と黒のマス目が同数でなければ、ドミノ札で覆いつくすことはできない。

しかし、隅にある同色のマス目を切り落としてしまうと、残った盤の白と黒のマス目は同数にならない(図5では白32マス、黒30マス)。したがって、この盤をドミノ札で覆うことはできない。

なんという鮮やかな証明だろうか。中学生だった私は目を見張り感動したものである。盤を白黒の市松で塗り分けるというプロセスは補助線を引くのとは別物かもしれないが、ある種の補助図形を作図することに等しい。この問題を考えることの本質的な部分を見事に表現していると思う。