中国「超先進的電子マネー社会」の光と影〜一方、日本は何周も遅れ…

個人経済行動がすべて信用スコアに集約
野口 悠紀雄 プロフィール

利点もあるが危険もある

このようなサービスをどう評価するかは、難しい問題だ。

まず、大きな利点があることは、間違いない。

担保がないためにこれまで融資を受けることのできなかった自営業者や零細企業が、融資を受けられるようになったのだ。

これは、「金融包摂」(Financial Inclusion)」と言われるものだ(通常の金融サービスを受けられない人々が、融資などの金融サービスにアクセスできるようにすること)。中小零細企業、農民、低所得層、貧困層、身体障害者、高齢者などがその主な対象だ。

スタートアップ企業も、資金調達できるだろう。こうして経済発展がさらに加速化される。

 

しかし、反面で 大きな問題もある。それは、信用スコアリングが融資審査以外のさまざまな場面で用いられることだ。

企業の採用で合否判定の資料として使われないという保証はない。スコアの低い人は就職できず、スコアがさらに下がるという悪循環に陥り、社会から締め出される危険がある。

SNSの情報が用いられれば、反政府的な考えを持つ人のスコアリングが低くなるだろう。そうなれば、国家統制が強化される危険がある。

こうした問題があるにもかかわらず、中国人は、信用スコアリングに抵抗感を持たないようだ。上述のように、スコアを高めるために、個人情報を自ら積極的に提供している。

日本では、このような形で個人が評価されることに対して、否定的な考えを持つ人が多いだろう。欧米でもそうだ。

電子マネーによる信用スコアでは、所得が高く資産を多く持っている人は点数が高くなる。これは、究極的な資本主義(市場主義)だと考えることもできる。

しかし、資産や所得によらず人々は経済的に平等というのが、共産主義の理念であるはずだ。

共産主義国である中国で、その理念の対極にあるものが爆発的に広がっているのだ。真面目に考えれば頭が壊れるほどの事態が中国で進行していることになる

フェイスブックの仮想通貨プロジェクト「リブラ(Libra)」を率いるデビッド・マーカス氏は、7月16日のアメリカ上院銀行委員会で「強調したいのは、もし私たちが先行しなければ、ほかの国がやる」といった。これは、中国のことを想定した発言だろう。まったくそのとおりだ。