腎臓病のはるかさんは29歳のとき、妊娠した。我が子の誕生を心待ちにしていたある日、医師に「今すぐに堕ろすべきだ」と言われ……。新刊『それでも、母になる: 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)より特別公開!
第一回はこちら:夫と腎臓をはんぶんこして生きる〜38歳で臓器移植をした夫婦の物語
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腎臓病の私が産めるのだろうか
結婚2年目、29歳の頃に、はるかさんは"うっかり"妊娠をした。
気分が優れず気持ち悪い日が続き、まさか! と思って、試した妊娠検査薬の結果は陽性。
当初は、仕事も忙しく、夫婦ふたりの暮らしも楽しかったので「やってしまった」とブルーな気持ちになった。
「そもそも、腎臓病である私が産めるのだろうか」という不安にも襲われた。
妊娠中は、お腹の赤ちゃんに栄養を送るために、母体に流れる血液量が増加し、腎臓に大きな負担がかかる。そのため腎臓病患者にとって、妊娠・出産は大きなリスクになる。
はるかさんがプロポーズの際に「病気で子どもを産めないかもしれない」と前置きしたのには、そうした理由がある。
陽性反応を受けて、産婦人科を訪れると、妊娠2ヵ月だった。
医師の「妊娠おめでとうございます!」という言葉は、はるかさんの憂鬱や不安を吹き飛ばし、喜びを与えた。エコーで我が子を確認した時には、母としての自覚が芽生え、「産みたい」という強い気持ちが湧いた。医師は、はるかさんのその気持ちを汲んでか、腎臓病を患っていても、妊娠の継続を止めることはなかった。
お腹のなかの赤ちゃんは順調に育ってはいたが、妊娠4ヵ月で、はるかさんは「妊娠高血圧症候群」にかかり、身体中が痒かゆくなった。それでも、お腹のなかで育つ我が子への愛情は日に日に増し、心が満たされていた。
「心のつっかえがとれて、産んでいいんだということがとにかく嬉しくて。新しい命を待ちわびる、ただただ幸せな妊娠生活だった」
自分の身体の事情を考慮して、出産・子育てに備えて、会社を辞めることも決意。命が育つ過程を慈しみながら、我が子の誕生を心待ちにしていた。