N国が話題の中、NHK「常時同時配信」が放送業界全体に与える衝撃

放送の「死」、その先に何が残るか
飯田 豊 プロフィール

テレビの原風景へ

岡山県岡山市に2014年、イオンモール岡山が開業しました。JR岡山駅と地下街で直結していて、西日本の旗艦店と位置づけられています。館内には約50台のデジタルサイネージが遍在していて、中心部の吹き抜けには300インチの巨大スクリーンが設置されています。

岡山放送はメインスタジオとオフィスの主要部分を、イオンモール岡山に移転しました。その一方、モール独自のインターネットテレビ局「haremachiTV」も設置されていて、岡山放送が運営協力しています。館内のデジタルサイネージに番組が上映されるほか、インターネットでも配信されます。この仕組みを活用して、モールとネットで生配信した音楽番組を、後から地上波で放送するという取り組みもおこなわれています。

 

東京では1990年代以降、お台場を皮切りに、六本木、汐留、赤坂で、それぞれ民放キー局の新社屋が入社する巨大施設を核として、大規模な都市再開発が進みました。放送局はブランド性がある土地を、まっさらな再開発エリアはシンボリックな文化性を帯びた施設を、それぞれ求めた結果です。キー局が主催するイベントは2000年代以降、社屋とその周辺地域で開かれることが定番となり、その街ににぎわいを創出することが明確に企図されていました(近森 2013)。

それに比べて、地方都市の放送局は今でも、城の外堀に隣接していたり、行政区域のなかにあったり、市街地の賑わいとは乖離した閑静な場所に位置していることが多いのが実状です。岡山放送もその例外ではありませんでした。同社の担当役員(2014年当時)によれば、2000年代以降、テレビ広告の縮小傾向のなかで試みてきた打開策のほとんどが、2008年のリーマンショックで吹き飛んでしまった反面、「地域メディアであるわが社の成長は地域の発展と共にしかあり得ない」という確信を得たそうです(高橋 2014)。

イオンモール岡山が果たして「単なる商業施設にとどまらず、公共性を有した施設として地域活性化の装置」になりうるか否かはともかく、この決断によって岡山放送が目指しているのは、「顔が見える視聴者とのリアルなコミュニケーション」であり、「送り手・受け手という従来のテレビの概念を大きく飛び越え、制作者、視聴者、消費者、商業施設、自治体などが一体となった新しいメディアの領域を切り拓く可能性」であるといいます(高橋 2014)。放送をめぐる危機と向き合い、克服するための試行のひとつといえるでしょう。

この5年のあいだに岡山放送は、イオンモール岡山の館内にあるホールを活用したイベントや、haremachi TVの設備を利用した子ども向けワークショップなど、商業施設の
中にオフィスがあるという利点を最大限活かした企画を相次いで打ち出しています。まだ試行錯誤を重ねている面もありますが、総務省の検討会では、放送事業の基盤強化に関するモデルケースのひとつと目されているようです。

これは短期的にみれば新しい試みですが、メディア史の視角からみれば、テレビの原風景とぴったりと重なり合います。