2019年の改正放送法は、常時同時配信の実現にあたって、NHKが民間放送と協力することを努力義務として課しています。
しかし、財務状況が盤石なNHKに対して、ほとんどのローカル民放局は、中長期的な人口減少や東京一極集中といった深刻な課題に直面しています。
戦後に確立された県域免許制度、在京キー局を中心とする系列関係という仕組みの限界を指摘する声も根強く、業界再編の必要性まで指摘されています。
常時同時配信を可能とする制度整備のあり方については、総務省で2015年11月から始まった「放送を巡る諸課題に関する検討会」で議論され、第二次取りまとめ(2018年9月28日公表)でその基本的な方向性が示されました。
そしてこの検討会には2018年11月、「放送事業の基盤強化に関する検討分科会」(以下、分科会)が設けられ、ローカル民放局の基盤強化のあり方および経営ガバナンスの確保などをめぐって、現在も議論が継続しています。
分科会は2019年7月11日、経営基盤強化に関する中間取りまとめを公表しました(最終取りまとめは2020年3月の予定)。ローカル民放局の収入構造は、ラジオは全国広告主が3割、地元が7割ですが、テレビは逆に7割を全国広告主に依存しています。今後、広告収入を伸ばしていくことは困難です。
そこで基本的な方策として指摘されているのは、(1)ローカル民放局の社会的役割を堅持しつつ、(2)インターネットの活用による地域コンテンツの流通促進、(3)地域コンテンツの海外展開などを目指すべきというものです。いずれも総論としては決して目新しいものではありません。
もっとも、分科会の配布資料や議事要旨などに目を通すと、ローカル民放局の個性的な取り組みが数多く報告されていて、とても興味深いです。
たとえば、ローカル民放局が主催するイベントは、多種多様な地方文化を背景として、地域活性化、食・農業、スポーツ、文化・芸術、子育て・教育、健康、防災・復興、環境保護、チャリティーなど、多岐に渡っています。
野外音楽フェスティバルやフードフェスティバルなど、若年層に対する訴求力が高い文化事業も少なくありません。いわゆる「経験経済」や「体験型消費」に、ひとつの活路を見出そうとしているわけです。
そして分科会には「オブザーバー」として、日本民間放送連盟に加えて、注目に値する報道や事業などに取り組んでいるローカル民放局が名前を連ねています。
たとえば福島中央テレビは、東日本大震災のさいに福島第一原発の水素爆発を唯一撮影できた放送局であり、現行の県域免許制度によって、地方ジャーナリズムが健全に機能していることを象徴する存在といえるでしょう。
それに対して、岡山放送は、商業施設を拠点とした新しいビジネスモデルを追求している点に独自性があります。筆者は2008年から10年以上にわたって、岡山放送がたびたび取り組んできた社会教育活動に協力するとともに、同局に対する聞き取りを継続してきた経緯もあります(飯田 2016a)。
そこで次のページで簡潔に紹介しておきたいと思います。