国立大学法人岡山大学の森山芳則・元薬学部長と榎本秀一・元副薬学部長が、14年9月25日に下された「学部内でのパワーハラスメント行為や外部への情報提供を理由に下された停職などの処分」を不服として、停職処分の無効確認と地位確認を求めた民事訴訟は、今年5月31日、岡山地方裁判所によって敗訴判決が言い渡されたものの、両氏は広島高等裁判所に控訴、8月14日、「控訴理由書」を提出した。
大学側の各種処分は、岡山大学で横行していた論文不正に気付いた両氏が、当時の森田潔学長に内部告発した結果だった。
森田学長は、この“不祥事”が表沙汰になるのを恐れたのか封印。そればかりでなく、両氏のパワハラなどを理由に停職などの処分を下した。森山氏は、「判決は絶対に承服できない」として、控訴理由を次のように語る。
「裁判所は、『論文不正はなかった』という大学側の主張を全面的に採用。しかも、我々を排除するために行なったパワハラ調査委員会の結果を受け入れ、処分理由にした。大学の隠ぺい工作に裁判所が手を貸した。こんなことが許されていいハズはありません」
この判決は、「フリーライター伊藤博敏への情報提供」と、私の実名を挙げ、そうした情報をもとに行なった記事が、「被告(岡山大学)の最高学府としての権威や研究への信用性を大きく揺るがせるもの」として断罪した。
これは看過できない問題である。
両氏が、地元メディアや私への情報提供を行なった14年1月から2月にかけては、論文不正問題が医薬業界を揺るがせていた頃である。
厚生労働省は、14年1月9日、医薬品大手・ノバルティスファーマを薬事法違反で東京地検に告発。
これは降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)に関するものだったが、ひとつの医薬品、1社のメーカーの問題ではないことは、医薬業界関係者なら誰でも知っていた。
私は、両氏の情報をもとに、本サイトを含む幾つかの媒体で記事にした。
<データ改ざん、不正論文が次々発覚!製薬業界と大学「癒着の構造」に切り込んだ2人の岡山大学教授の闘い>(14年2月13日配信)と題する記事では、事件の背後には、「製薬業界と大学(研究者)の癒着がある」としたうえで、両氏の告発の意味を次のように書いた。
「その第一段階の『癒着』を、大学内部から改革しようとする貴重な告発者が現れた。岡山大学薬学部の森山芳則薬学部長と榎本秀一副薬学部長である」
その思いは、5年を経た今も変わらないのだが、大学と両氏の争いはどのようなものだったのか。