物価上昇目標2%に固執して、世界の金利は間もなく「水没」する

「最大の被害者」は、資産運用業と家計
高田 創 プロフィール

水没第1ラウンド―ECBのマイナス金利政策

筆者がこの「水没マップ」を使うようになったきっかけは、2014年6月に欧州中央銀行が政策金利である預金ファシリティ金利を▲0.1%に引き下げ、事実上マイナス金利政策を開始したことにあった。

欧州では2010年代初に欧州債務危機が起き、その後、内需を中心とした成長シナリオが描けず、債務危機の主因となった財政赤字を縮小すべく各国が極端な緊縮財政を行うことで更なる内需減退が生じた。

そうしたなか、外需に依存すべく、自国通貨の引き下げを目的としたのがマイナス金利政策であった。

ただし、当時、日本や米国も事実上のゼロ金利政策状況にあったので、欧州は日米を踏み台にした通貨下落策によって浮上を目指したことになる。

同時に、欧州地域のなかでECBが金利引き下げ政策をとるなか、ユーロを使用していないスイスや北欧諸国は、自国通貨上昇を抑制すべくマイナス金利政策に踏みだし、欧州の大陸全域にマイナス金利が波及した。

水没第2ラウンド―2016年日本のマイナス金利参戦

第2ラウンドは2016年であった。

2015年後半以降の「チャイナ・ショック」、つまり中国を起因とした世界経済減速によって世界の景況感が低下した。

2015年12月に、米国はリーマンショック後、初めての利上げの転じたものの、その後、1年余り利上げ休止を余儀なくされた。

その結果、米国の長期金利が急低下し、日米金利差縮小によって日本への資金が流れ急な円高が進んだ。

2012年以降のアベノミクスの好循環はそれまでの超円高・株安の悪循環を断ち切ったことにあっただけに、その好循環が崩れる不安を日本銀行は強く危惧した。

日銀は2016年1月にマイナス金利政策を決断、O/Nコール金利を0.1%引き下げ▲0.1%とし、日本も事実上マイナス金利政策を開始した。日本も結局、欧州同様に為替要因による事実上の通貨戦争参戦だった。

 

第2ラウンドまでは米国の「浮き輪」があったが

ただし、ここで重要なのは、この段階まで、日欧は通貨戦争に踏み出したが、それを受け入れた「踏み台」があった点だ。

すなわち、日欧が金利水没するなか米国は水没せず、米国が世界の「水没」のなかで「浮き輪」のように浮き出て、世界全体の水没を防ぐ防波堤になっていた。米国は2015年以降、利上げを開始し、2018年12月まで合計9回の利上げを行った。

米国の政策金利FFレートの9回にわたる引き上げは、先の水没マップでは、「浮き輪」を高くする役目を果たした。

一方、日欧のマイナス金利下、自国で利回りが確保できない環境下、日欧の運用者が生き残りをかけた「運用難民」として米国の「浮き輪」に殺到した結果が、米国短期金利は上昇しても米国長期金利の上昇は限られ、同時にベーシススワップ上昇に伴う米ドル調達金利上昇となった。

2014年から始まった金利水没は2018年まで米国の利上げのなかで日欧に限られていた。

水没第3ラウンド―米国の利下げ転換

次の第3ラウンドは、以上の環境に大きな転換が生じたが2019年だ。それまで一貫して「浮き輪」の存在であった米国が、利下げに転じ、「浮き輪」自体が沈み始めた。

運用難の日欧の投資家が依存できる数少ない運用先が米国であったが、2019年、こうした状況も終わりつつある。

2019年6月には米国経済の成長は120カ月となり、戦後最長に並んだ。そうした大型の景気拡大を通じ米国FRBは利上げを続けてきたが、既に企業セクターを中心に減速の兆しが生じている。また、海外経済も中国や欧州の減速が顕現化し、日本も減速の動きがみえだした。

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