「愛する人の一部が、私のなかに、ずくずくと生きている」
両角はるかさんの身体のなかには、夫であるたくまさんの腎臓がひとつある。中学1年生の頃から25年間、腎臓病とともにあるはるかさんは、38歳にして、夫婦間で臓器移植をした。
夫のたくまさんから、ふたつある腎臓のうちのひとつを分けてもらったのだ。
「常に夫と一緒にいるような安心感があって、夫に生かされているんだと、愛おしい気持ちが身体からむくむくと湧いてくる」
たくまさんの臓器があるという腹部の右下を優しく撫でながら、そう話すはるかさんの姿は、新しい命を授かった妊娠中の女性にも重なる。守るべきものの存在を意識して、生きる希望で満ち溢れているような。
「たしかに、妊娠している感覚に近いのかもしれない。不思議と、心が満たされている。私たち夫婦の間に今、子どもはいないけれど、子は鎹(かすがい)と言われるのと同じように、分け合った腎臓がふたりの仲を深めてくれている気がするなあ」
結婚11年目にして、夫に対する愛情を恥ずかしげもなく、明るくさっぱりと語ってくれるはるかさん。その愛情は、腎臓移植という「特別」な分かち合いによって育まれたものなのだろうか。
「うーん、どうだろう。たしかに臓器移植を通してふたりの絆は深まったけれど、結婚当初からずっと仲は良くて。夫とは、恋人であり、親友であり、親子であるような関係性」
そんなふたりの関係性はどう築かれてきたのか。病気と、パートナーと、ともに歩んできたはるかさんの人生と家族のかたちを紐解く。